第226号 平成20年 2月19日(火)

新学習指導要領(案)に対する「つくる会」のコメントを発表
教育基本法改正の趣旨が「内容」に反映されていない

 
  新しい歴史教科書をつくる会は、本日、先に文科省が発表した「『新学習指導要領(案)』に対するコメント」を発表しました。内容は次の通りです。

「新学習指導要領(案)」についてのコメント

                            平成20年2月19日
                         新しい歴史教科書をつくる会

(1)文部科学省は、2月15日、「新学習指導要領(案)」を発表した。今回の学習指導要領の改訂は、一昨年成立した改正・教育基本法に基づくものである。しかしその努力の跡は見られるものの、全体をとおして見ると、教育基本法改正の趣旨を十分に反映したものとは言い難い。細かくいえば、改善は各教科の間においてばらついており、この点でも不十分である。当会として教科書執筆に関わっている中学校社会の歴史的分野と公民的分野に限って、以下、若干コメントする。

(2)授業時間数が増え、歴史的分野は25単位時間、公民的分野は15単位時間増となったことは評価できる。

(3)歴史的分野については、現行学習指導要領との間に基本的に大きな違いはない。「目標」も、「民主的、平和的な国家・社会形成者」という表現が「平和で民主的な国家・社会の形成者」と変わるという細かい字句の修正があっただけで、現行のままである。
 「内容」については、冒頭にあった「人類の出現」が消えた。本来、人類の進化・出現は生物学の領域のテーマであり、適切ではなかった。その意味でこれは改善といえるのだが、他方「内容の取扱い」を見ると、「人類の出現にも触れること」と書かれていて、「歴史とは何か」という本質的な検討を経た改定ではないことが判明する。
 これとは逆に、従来「聖徳太子の政治」が「内容」で明記されていたのに、今回の改定案からはなくなった。これは重大な改悪といえるが、これも「内容の取扱い」で、「聖徳太子の政治、大化の改新から律令国家の確立に至るまでの過程を、小学校での学習内容を活用して大きくとらえさせるようにすること」という記述が新たに起こされており、むしろ当会の『新しい歴史教科書』の構成に合致するものとなった。
江戸時代については、改善が認められる。「江戸幕府の政治と特色」について、「内容の取扱い」の項で、「その支配の下に大きな戦乱のない時期を迎えたことなど、それ以前の時代との違いに着目して考えさせるようにすること」という記述が新たに付け加えられた。また、「教育の普及と文化の広がり」という言葉が「内容」に入り、これを受けて、「内容の取扱い」では、「藩校や寺子屋」に言及しつつ、「現在との結び付きに気付かせる」としている。
近代で、「日清・日露戦争」について、「内容の取扱い」で、「この頃の大陸との関係に着目させること」という記述が加わったのも評価できる。しかし、昭和期の戦争については、「軍部の台頭から戦争までの経過」という表現が引き継がれ、「軍部の台頭」が戦争の原因であったかのような文脈が相変わらず維持されている。
「教科書改善の会」(屋山太郎代表世話人)が文科省に提出していた、「沖縄戦の犠牲に対する感謝と共感の念をはぐくむ」という記述は入らなかったが、当然である。
 時代区分については、従来、幕末以降を「近現代」としていたが、この度、昭和20年以前を「近代」、以後を「現代」として、初めて区別した。戦後60年以上経っており、妥当な扱いといえるだろう。昭和20年の終戦を境に分けるのは常識的な区分に過ぎないが、やむを得ないところであろう。
 「内容の取扱い」の項で、従来あった「細かな知識を記憶するだけの学習に陥らないようにすること」という文言が削除された。ある程度の「細かな知識」の「記憶」がなければ、思考も追究も成り立たないのだから、この変更は方向として正しい。なお、これに限らず、従来あった禁止的な言い回しの文言が「内容の取扱い」から消えたことも今次改定の特色といえる。

(4)歴史的分野についての学習指導要領の根本的な問題点は、「目標」に書かれている「我が国の歴史に対する愛情を深め」るという「目標」が、「内容」と「内容の取扱い」に反映されていないことである。さらに、学習指導要領にはほとんど認められない「自虐史観」のトーンが、教科書検定では「近隣諸国条項」などをタテに野放しにされて来たことがもっと問題である。
これら、教育行政の全体を問題にする形で歴史教育の改善をはかっていかなければならない。特定勢力への政治的屈服として出された「宮沢談話・近隣諸国条項」、「河野談話」、「村山談話」、「渡海検定」について、政府の責任において早急に改めるべきである。

(5)公民的分野については、歴史的分野以上に大きな問題がある。
 現行指導要領は「社会生活における取り決めの重要性やそれを守ることの意義」を記していたが、改定案では「契約の重要性やそれを守ることの意義」に変化した。これは、道徳などを軽視し、社会生活を法的関係・権利関係に還元しようとする思想が根底にあることの現れであると思われる。要するに、個々人をバラバラにし、個々人を結びつける紐帯を解体しようとする思想である。この思想は、「家族」が消えていることに端的に現れている。
 日本が真の独立国家になって行くには、「国家論」を中学生段階から教えていく必要があるのだが、学習指導要領は、「国家とは何か」を教えない形になっている。また、学習指導要領は、相変わらず「日本国憲法」の原則を人権尊重、国民主権、平和主義の三原則でとらえる偏った学説を採用し、「日本国憲法」の第一原則である「間接民主主義」あるいは「議会制民主主義」を無視している。

 領土問題については、北方領土のみ規定され、竹島、尖閣列島が漏れているのは遺憾である。
 教育基本法改正の趣旨は、公民的分野の改定ではいちじるしく無視されたといえるだろう。当会は独自の視点から、公民教科書のあるべき形をつくり出して世に問いたいと考えている。
                                                       (以上)

 

 

追記;『自由』3月号に本会副会長杉原誠四郎の
    ”戦後教育六十年の反省を踏まえて--中央教育審議会 「審査のまとめ」に対する意見-- ”
    が載っています。ご参照ください。

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