第230号 平成20年 3月14日(金)
新しい歴史教科書をつくる会は3月14日、「新中学校学習指導要領案の〔歴史的分野〕への要望書」をまとめ、文科大臣に提出しました。これは、3月7日に提出した〔公民的分野〕(FAX通信第228号)に続く第2弾の要望書です。
平成20年3月14日 文部科学大臣 渡海紀三朗殿 新しい歴史教科書をつくる会 会 長 藤岡 信勝 副会長 福地 惇
新中学校学習指導要領案〔歴史的分野〕への要望書
新中学校学習指導要領社会科〔歴史的分野〕につき、下記のとおり要望書を提出します。 (1) 今回の改定案に対する総合的評価 今回の新学習指導要領案は、一昨年成立した改正教育基本法に基づくものである。当会は中学校社会科の歴史および公民の教科書作成に関与しており、ここでは〔歴史的分野〕に関する本会の見解を表明したい(〔公民的分野〕は3月7日に提出ずみ)。 歴史的分野の授業時間数が25単位時間増加したことは評価する。 改定案は、現行学習指導要領を基本的に踏襲したものであり、現行版の長所も欠陥も引き継いでいるといえる。現行版の最大の問題点は、「我が国の歴史への愛情を深め、国民としての自覚を育てる」という正当な「目標」を掲げているにもかかわらず、「内容」にそれが十分に反映されていないところにある。それどころか、一部には東京裁判史観を脱していない内容すら認められる。 他方で、改定案は教育基本法の改正を受けたものであるため、改正の趣旨を反映した努力の形跡は認められる。一部には今回の改定案を改悪であるとする評価も見受けられるが、それは当たらない。部分的に疑問の部分はあるが、総体としては改善と見るべきである。 汲み取る改善を全時代諸所に施したものと言えよう。「目標」も、「我が国の歴史の大きな流れと各時代の特色を世界の歴史を背景に理解させ」という表現が「我が国の歴史の大きな流れを、世界の歴史を背景に、各時代の特色を踏まえて理解させ」と変わるという字句の組み換えと細かい修正が行われただけである。 現行の「内容」(1)「歴史の流れと地域の歴史」が、改定案では、(1)「歴史のとらえ方」となり、「時代の区分やその移り変わりに気付かせ、歴史を学ぶ意欲を高めるとともに、年代の表し方や時代区分についての基本的な内容を理解させる」と変わった。時代区分や、時代の特色を大づかみに把握するという視点は、義務教育段階の歴史の学習として重要であり、この改定は評価できる。 現行の「内容」(2)では、その冒頭にあった「人類が出現し」が消えた。本来、人類の進化・出現は生物学の領域のテーマであり、歴史の冒頭に置くのは必ずしも適切ではなかった。その意味でこれは一見、大きな変化を思わせるが、他方「内容の取扱い」を見ると、「人類の出現にも触れること」と書かれている。位置づけを変えただけであり、「歴史とは何か」という本質的な検討を経た改定ではないことが判明する。 また、従来「聖徳太子の政治」が「内容」で明記されていたのに、今回の改定案からはなくなった。これは一見、改悪といえるが、他方「内容の取扱い」では、「聖徳太子の政治、大化の改新から律令国家の確立に至るまでの過程を、小学校での学習内容を活用して大きくとらえさせるようにすること」という記述が新たに起こされており、むしろ当会の『新しい歴史教科書』の構成に合致するものとなった。 江戸時代については、改善が認められる。「江戸幕府の政治と特色」について、「内容の取扱い」の項で、「その支配の下に大きな戦乱のない時期を迎えたことなど、それ以前の時代との違いに着目して考えさせるようにすること」という記述が新たに付け加えられた。また、「教育の普及と文化の広がり」という言葉が「内容」に入り、これを受けて、「内容の取扱い」では、「藩校や寺子屋」に言及しつつ、「現在との結び付きに気付かせる」としている。江戸時代については、かつての貧農史観から脱却し、長く続いた平和と安定のなかで教育と文化が発展した、という肯定的な歴史観が確立したといえる。 内容(5)「近代の日本と世界」のウに「立憲制の国家が成立し議会政治が始まるとともに、我が国の国際的地位が向上したことを理解させる」と記述され、内容の取扱いで「その歴史上の意義や現代の政治とのつながりに気付かせるようにすること」とされて、明治国家の成立過程という視点から教材が組み替えられた点も大きな前進である。「日清・日露戦争」について「内容の取扱い」で、「この頃の大陸との関係に着目させること」という記述が加わったのも評価できる。 しかし、昭和期の戦争については、「軍部の台頭から戦争までの経過」という表現が引き継がれ、「軍部の台頭」が戦争の原因であったかのような文脈が相変わらず維持されている。 時代区分については、従来、幕末以降を「近現代」としていたが、今回の改訂で、昭和20年以前を「近代」、以後を「現代」として、初めて区別した。昭和20年の終戦を境に分けるのは常識的な区分に過ぎないが、戦後も60年以上経過しており、やむを得ないところであろう。 最後に、「内容の取扱い」で、従来あった「細かな知識を記憶するだけの学習に陥らないようにすること」という文言が削除された。ある程度の「細かな知識」の「記憶」がなければ、思考も追究も成り立たないのだから、この変更は方向として正しい。なお、これに限らず、従来あった禁止的な言い回しの文言が「内容の取扱い」から消えたことも今次改定の特色と言える。 このように、随所に工夫・改善が見られ、総体的には評価できるというのが、「つくる会」の見解である。しかし、若干、不十分な箇所が残されている。以下、問題点を指摘して、個別具体的な修正を要望する。 (2) 修正要望事項 @ 「内容」の(2)のア「世界の古代文明」に関わる「内容の取り扱い」(3)のア「宗教のおこり」で「仏教、キリスト教、イスラム教」があげられるが、これらはかなり発達した宗教であり、原案に、さらにユダヤ教、ゾロアスター教、バラモン教を追加すべきであろう。 A 「内容」の(3)のイ「武家政治の展開や民衆の成長を背景とした社会や文化が生まれたことを理解させる」ために「禅宗の文化的影響など」が特記されているが、疑問なしとしない。室町時代に禅宗が大きな影響力をもったのは事実だが、「など」とはあるものの、これでは鎌倉仏教諸派の新たな発展が存在したことを見落とさせることになりかねない。「禅宗」を「鎌倉仏教諸派の新たな発展」に改めるべきである。 B 「内容」の(5)のカ 先に触れたとおり、「軍部の台頭」を「昭和初年来の政治・軍事・経済の困難な情勢の出現」に改めることを要望する。
(3)近隣諸国条項の削除を 学習指導要領にはほとんど認められない「自虐史観」のトーンが、教科書検定では「近隣諸国条項」などをタテに野放しにされてきたことが、歴史教育にかかわる教育内容行政の最大の問題点である。教科書は学習指導要領に準拠して書かれるという大前提を尊重し、歴史教科書の内容をより正常化するためにも、教科書検定基準に介在するいわゆる「近隣諸国条項」は一刻も早く削除されるべきであろう。要するに、特定勢力への政治的屈服として出された「宮沢談話・近隣諸国条項」、「河野談話」、「村山談話」、「渡海検定」などの障害物は、政府の責任において早急に改められるべきである。 (以上)
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