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平成20年5月21日
新しい歴史教科書をつくる会
当会は「FAX通信第235号」(4月17日付)で、同日、自由社版『新しい歴史教科書』を文科省に検定申請し、正式に受理されたことを公表しました。FAX通信では、扶桑社(または子会社の育鵬社)が検定申請を行わなかったことが判明したことも伝えました。
これに対し、現行の『改訂版・新しい歴史教科書』の発行元である扶桑社は、4月25日、同社教科書事業部の名前で「『つくる会FAX通信』に対する扶桑社の見解」(以下、「見解」と略称)を発表しました。さらに同社は、5月8日、「教科書発行のご案内」というタイトルの文書(以下、「ご案内」と略称)を片桐松樹社長名で作成し、「現行教科書の平成22・23年度分は、引き続き扶桑社から継続発行します」と宣言しました。その文書は、「関係各位」に配布されるとともに、当会支部関係者にも送付されていることが判明しました。
しかし、扶桑社の「見解」とそれに基づく「ご案内」は、明らかに誤解と推測に基づく誤ったものです。当会が上記FAX通信及び『史』5月号(4月末発行)で示した内容は全く変更の必要がないことをお知らせします。以下、扶桑社の「見解」の誤りのうちの主要な3点について、同文書から引用した上で明らかにし、その他の点については、つくる会支部関係者からの疑問に答える形で説明します。
なお、上記の動きと並行して、『改訂版・新しい歴史教科書』の代表執筆者・藤岡信勝は、平成20年3月28日、扶桑社に対し、現行採択期間による配給期限が切れる平成22年4月以降は、著作権の使用許諾を打ち切る旨、内容証明郵便にて通知しました。これに対し、4月8日、扶桑社側から藤岡あて配達証明郵便で、「平成22・23年度も継続発行する」との「通告書」が送られてきました。これについて、代表執筆者・藤岡は、4月16日付で再度内容証明郵便を送り、問題の性格を改めて鮮明にしました。このFAX通信の末尾に、4月16日付けの2度目の「通知書」を資料として添付いたします。
(1)自由社版教科書は扶桑社版の「複製」ではありません
【扶桑社の見解】
《言うまでもなく、現在、各学校で使用されている現行の扶桑社版『新しい歴史教科書』は執筆者、監修者、扶桑社が著作権を有する共同著作物であり、著作権者全員の了解を得なければ、この複製は、法律上、禁止されています。》
【上記見解の誤り】
扶桑社は、現在検定に提出されている自由社版歴史教科書の内容を知りませんし、それは文科省において検定作業中であるため、外部には一切公表することが出来ません。扶桑社はそれなのに、上記引用文にある通り自由社版教科書が扶桑社版の「複製」であると憶測しています。
しかし、自由社版教科書は、扶桑社版教科書を「複製」したものではありません。全てのページの版が新たに作成され、扶桑社版から「複製」した図版は1枚もありません。自由社の教科書は全く新規に製作されたもので、その内容こそ現行版を踏襲していますが、書籍としては完全に別のものになっています。従って、扶桑社の指摘は全く根拠のないものです。
(2)扶桑社は平成22・23年度に歴史教科書を発行することは出来ません
【扶桑社の見解】
《現行の扶桑社版『新しい歴史教科書』は、現行の学習指導要領に基づいているため、今回検定申請しなくとも、平成22・23年度分も継続的に発行できることは、法律上、認められているところです。》
【上記見解の誤り】
この説明は、次元の異なる問題をすり替えています。そもそも教科書は、法令上は「教科用図書」と呼ばれているように、まずもって「図書」として発行され、検定が通った時には「教科用図書」(教科書)となるのです。従って、教科書にも著者の著作権があり、著者の許諾なしには出版社が図書として発行することはできません。
ところで、扶桑社は昨年の2月26日付け文書で、つくる会と絶縁する旨通知してきました。そこで『新しい歴史教科書』の著者たちは、やむなく苦心の末別の出版社を探して、この度検定申請までこぎつけたものです。今問われているのは、検定申請が必要か否かの教科書行政上の問題ではなく、扶桑社が絶縁した著者たちの著作物を、著者たちが著作権の使用許諾を打ち切ると正式に通告しているにもかかわらず発行し続けることが出来るかどうかという、著作権法上の問題です。それは明白な著作権侵害行為にあたり、法律上許されません。
扶桑社にはこの認識がないようなので、『改訂版・新しい歴史教科書』の代表執筆者・藤岡信勝は、扶桑社宛て文書とは別に、同社の親会社である株式会社フジテレビジョンの豊田社長宛て、4月30日付けで内容証明郵便を送り、「扶桑社に対し適切な指導」をするよう勧告しました。
(3)新学習指導要領に基づく教科書編集は検定をスキップする理由にはならない
【扶桑社の見解】
《当社を含む中学校社会を発行するすべての教科書会社は、教育基本法の全面改正を受け、新しく告示(本年3月28日)された新学習指導要領に基づき教科書を編集すること(平成24年度からの使用分)に全力を挙げるため、今回の検定は見送っているとのことです。》
【上記見解の誤り】
各教科書会社が、新指導要領に基づく教科書を編集することに力を集中するために今回の検定を見送っていると書いていますが、これは教科書採択制度を業者の都合に合わせて解釈した言い分に過ぎません。教科書採択は4年に1度行われ、採択された教科書は4年間使用が義務づけられますが、学習指導要領の改定に伴う移行期には3年以下の採択期間が生じることがあります。今回は2年間使用の採択が来年行われます。しかし、たとえ2年間としても、そこで学ぶ子供にとっては人生で一度だけの中学校における歴史学習の機会であり、教科書会社としては最善を尽くすのが当然です。
実は、各社揃っての検定見送りは、既存の教科書会社が従来採択された地区で引き続き自社が採択されることを既得権として狙っているという事情があります。全社の内容に変化がなければ、各地の教育委員会が前回の採択結果を変更する道理がないと見なされるからです。それを「新指導要領に基づく教科書編集に力を集中するため」という美しい言葉で飾っているにすぎません。扶桑社が同様のことを行おうとしても、絶縁した著者たちの著作権を侵害することになりますから、不可能です。自ら「右寄り過ぎる」とレッテルを貼った教科書を、著者たちの著作権を無視して出版し、2年間も学校現場で使わせようとする行為は、商業道徳上いかがなものでしょうか。
それよりも、扶桑社は現行版の著者を追放し、育鵬社なる子会社まで設立したのですから、なぜ育鵬社から教科書を出して検定申請しなかったのでしょうか。
(4)つくる会支部関係者からの疑問に答えて
【疑問1】扶桑社の「ご案内」文書には、同社が昨年来、「歴史・公民教科書に関し、供給が完了するまでは扶桑社より発行」すること、「新しい学習指導要領に基づき編集される次回の新しい教科書を育鵬社より発行」することを表明してきたと述べていますが、この点はどうなのですか。
【疑問1への回答】現行版の「供給が完了」するのは、平成22年3月です。平成22年4月から使用する教科書は、来年度行われる採択結果に基づき、改めて決まります。扶桑社の「ご案内」は、自社の教科書があたかも平成24年3月に「供給が完了」するかのように述べていますが、これは教科書採択制度を無視した言い分です。「採択」なしに「供給」はあり得ないのです。また、平成22年4月からは、著者が著作権の使用許諾を与えないことを通告していますから、扶桑社が教科書を発行することができないことはすでに説明した通りです。
【疑問2】「ご案内」によれば、「次回の新しい教科書作りにおいてもご協力のお願いをさせていただきましたが、残念ながら独自の道を歩みたいとのことでした」とあります。つくる会は扶桑社の誘いを拒否して分かれたように読めるのですが、事実はどうなのですか。
【疑問2への回答】これは全く事実と異なります。末尾の資料にも述べている通り、もともとつくる会は会を辞めた人々も含めて、従来どおり扶桑社から教科書を継続発行するよう、再三にわたって要望してきました。その要望を無視して、「従来の枠組みは使えない」とつくる会に絶縁通告したのは扶桑社です。つくる会は、非常に困難な状況の下で出版社を探しました。会員の皆様もつくる会が新しい出版社を探すことができるかどうか非常に心配されて、たくさんの問い合わせをいただきました。つくる会は会員の要望に応えるべく最大の努力をしたのです。
【疑問3】「ご案内」は、つくる会の4月17日付け「FAX通信」が、「扶桑社は(検定申請をしなかったので)平成22・23年度使用の歴史教科書を供給できなくなる」と記したことについて、「事実と異なる言説」で同社の「業務妨害」を行ったとして憤慨していますが、どうなのですか。
【疑問3への回答】教科書をつくらなかった担当者が狼狽していることはよく理解できますが、著作権上当然の事実を分かりやすく指摘したまでで、事実と異なる点は何もありません。
【疑問4】「『つくる会FAX通信』に対する扶桑社の見解」では、4月2日付けのFAX通信に「但し、一部書き直しや図版の変更等の手直しは行っております」という部分を下線付きで引用し、「現行の扶桑社版を複製した可能性が多大」であることを「自ら認めるもの」と言っていますがどうなのですか。
【疑問4への回答】全く当たりません。自由社版歴史教科書は、扶桑社版とは見かけ上も別物です。ただし、扶桑社版の著者グループが執筆していますから、自らの著作権を行使するのは当然のことで、そうでなければつくる会の教科書としての継続性は保てません。ただし、文章についても改良を加えていますので、「一部書き直し」と表現したのです。FAX通信ではつくる会教科書としての連続性を理解してもらうためにそのような書き方をしましたが、それは「複製」とは全く別のことです。
【疑問5】「見解」には、藤岡信勝氏から一方的に「著作権使用許諾を打ち切る」通知をもらった時、「一執筆者である藤岡氏にその権限がない」ことを指摘したとのことですが、どうなのですか。
【疑問5への回答】扶桑社は完全に誤解していたようですが、代表執筆者・藤岡信勝は印税配分比率にして約9割の著者グループを代表して行動しているのです。9割の著者グループに、著作権行使の権限がないとは通らない主張です。逆に、扶桑社は9割の著者が著作権の使用許諾を打ち切る通告をした図書を、どんな権利があって「発行し続ける」ことができるのでしょうか。
【疑問6】「見解」は、扶桑社の一貫した方針をかねてから伝えているだけでなく、昨年9月9日に行われたつくる会の第10回定期総会においても、「新しい学習指導要領に基づき教科書制作を開始する」と自ら述べているのに、今般、「急遽方針を変え」たのか、「理解に苦しむ」といっていますが、つくる会は方針を変えたのですか。
【疑問6への回答】扶桑社は、代表執筆者と相談なく、つくる会との絶縁を一方的に決めました。現行採択期間の4年間は、現行のままの教科書が供給されるだけで、その後についてはつくる会は絶縁後の扶桑社と協議する必要も義務もありません。つくる会としては当然、自分たちの教科書を検定申請する必要があるわけです。
扶桑社は現行の『改訂版・新しい歴史教科書』にとらわれない新しい執筆者グループによる教科書の制作を早くから進めており、すでに昨年の春頃には教科書本文のドラフトが完成したとの風聞も伝わってきました。つくる会としては、少しでも早くつくる会の教科書を制作すべきだとの支部会員の意見も受け止め、昨年9月9日の総会後、文科省の方針で現行指導要領に基づく教科書採択期間が2年間にわたるとの情報が入った時点で、今年4月の検定申請に間に合わせるべく教科書制作を開始しました。そして、関係者の超人的なご努力で、検定申請の期日に自由社版の教科書を間に合わせることができました。
私たちには、あれほど早くから準備を進めていた育鵬社が、今年4月の検定申請を見送るとは思いもよらないことでした。つくる会は、会の趣意書に基づく歴史教科書をとぎれることなく発行し続けることを第一の優先課題としたのです。扶桑社(育鵬社)は、絶縁した著者たちの教科書を出し続けることができると考えていたことになります。
【疑問7】「見解」は、「当社は、藤岡氏に対し、現行の扶桑社版教科書を採択していただいている教育委員会や私立学校、そして供給先である中学校に無用の混乱、迷惑をもたらさぬよう、強く要請しましたが、それを省みることなく一方的な言動を行っております」と述べています。どう思いますか。
【疑問7への回答】もともと、出版社名を変えたり、教科書のタイトルを変えたりすることは教科書の継続性から見て愚策であることを指摘してきたのは、ほかならぬつくる会の側です。それを無視して、つくる会などの多大な努力で教育界に浸透させた「扶桑社」の名を捨て、新会社「育鵬社」を設立したのが扶桑社です。教育委員会や中学校の現場に「無用の混乱、迷惑」をもたらしたのは、扶桑社であるといわなければなりません。つくる会は、現場に無用の混乱をもたらさぬよう、『新しい歴史教科書』の趣旨を継続した教科書を今後とも出し続けるよう最大の努力を傾注してゆく覚悟です。
■参考資料 扶桑社社長あて4月16日付け「通知書」
『新しい歴史教科書(改訂版)』の代表執筆者・藤岡信勝の代理人弁護士から、「株式会杜扶桑社代表取締役片桐松樹様」あて、平成20年4月16日付けで送られた内容証明郵便の本文(全文)は、次の通りです。
◇
冠省 当職は、「新しい歴史教科書(改訂版)」代表執筆者藤岡信勝(以下、「通知人」といいます。)の代理人として、御社に対し、下記の通り再度通知します。
記
1 通知人は、御社代表取締役社長片桐松樹氏の「代理人」である御社教科書事業部マネージヤー真部栄一氏より、本年4月8日付け「通告書」を受領しました。同書を拝読しましたが、平成22年3月の現行配給期間終了をもって、御社に対する本教科書に係る著作権使用許諾を打ち切る方針については、一切、変更の余地がないことを改めてお知らせ致します。したがって、平成22年4月以降の配給分につきましては、本教科書の出版・販売を一切なされぬよう警告します。仮にこの警告を無視し、上記通告書で宣言されているように同年4月以降配給分についても御社が本教科書を出版・販売するというのであれば、御社に対し、出版差止めの法的措置を講じざるを得なくなりますので申し添えます。
2 以下、上記「通告書」に関し若干のコメントをさせていただきます。
(1)通知人からの3月28日付け「通知書」は、御社の代表取締役である片桐松樹氏に宛ててお送りしたものです。それに対して、片桐氏の部下に当たる真部栄一氏が「代理人」として「通告書」をもって返答されるのは、社会憤習から見てはなはだ異例であります。
(2)通知人が会長を務めている「新しい歴史教科書をつくる会」(以下「当会」といいます。)と御社との関係を振り返ってみます。
まず、当会は平成18年11月21日付け文書で、現行の『新しい歴史教科書』と『新しい公民教科書』について、従来どおりに「次期検定・採択にも参入すべく継続発行すること」を要望し申し入れました。この申し入れに対し、御社は同19年2月26日付け回答文書で、当会とのそれまでの関係を解消し、御社独自に教科書を作る旨、通告されました。その後、当会は御社に対し再考を求めましたが、同年5月17日の御社重役との会見で、御社としては当会と御社との従来の枠組みに戻すことについて「再考」する余地のないことが確認されました。そのため、当会は、他社の協力を得て、当会の理念を守り、当会設立趣意書に基づく教科書を継続発行する旨、平成19年5月10日緊急理事会にて決議し、この度、自由社より『新しい歴史教科書』の検定申請をするに至ったものです。
(3)御社は、上記平成19年2月26日付け回答文書で「次の改定教科書の供給開始時期である2010年度(代理人注:平成22年度)に向けて、発行準備を開始する」旨述べられそのための子会社育鵬社を設立されました。そして育鵬社の方では早くから編集作業を進めていると表明されておりましたので、当会では、同社でも、今春、検定申請されるものと推察していました。しかるに、現在まで育鵬社から検定申謂の様子が窺えないのは、当会としては、むしろ意外なことと受け止めています。
(4)当会は、当会の理念を守り、設立趣意書に則った教科書の継続発行の実現を決意して、これまで努力してきました。本来ならば、『新しい歴史教科書』とともに『新しい公民教科書』も検定申請しなければならないところでしたが、『新しい公民教科書』の方は準備が間に合わず、『新しい歴史教科書』だけを検定申請することになったことは、当会として甚だ遺憾の極みであります。
(5)以上の経緯から明らかなように、当会は御社の如何なる権利も侵してはおりません。偏に当会の理念を守り、設立趣意書に則った教科書を継続発行するという当会の意思を貫いたものに過ぎません。上記「通告書」には,
当会からの「著作権使用許諾の打ち切り」の通知が「著作権法の根拠に基づかない一方的な行為」であるとの指摘がありますが、通知人は印税比率に換算して約9割の著者の立場を代表しているだけでなく、通知人個人としても上記打ち切り措置を通知する権利を有しています。
なお、今般検定申請する新教科書においては、著作権等の法的問題につき、慎重な配慮の下に編集されていることを申し添えます。 (以上)
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