|
先の大戦末期の沖縄戦で、住民に集団自決を命じたとする誤った記述で名誉を傷つけられたとして、元戦隊長と遺族が、作家の大江健三郎氏と岩波書店に出版差し止めと損害賠償を求めた訴訟で、原告側の訴えを退けた10月31日の大阪高裁の判決を不服として、元隊長側は11月11日、最高裁に上告しました。これで、沖縄集団自決に関する名誉毀損問題は、最高裁で争われることとなりました。
なお、大阪高裁の控訴審判決に対して、当会の藤岡信勝会長は11月13日付産経新聞の正論欄に下記の見解を発表しました。
真実に背向けた集団自決判決
藤岡 信勝
「命令説」覆す新証言
沖縄戦で旧日本軍の隊長が集団自決を命じたとする2冊の本の誤った記述によって名誉を侵害された元隊長らがノーベル賞作家の大江健三郎氏と岩波書店に出版差し止めを求めていた裁判の控訴審で、10月31日、大阪高裁は一審判決にさらに輪をかけた大江・岩波寄りの判決を言い渡した。
この裁判における最大の争点は隊長命令説の真偽であった。家永三郎著『太平洋戦争』には「座間味島の梅沢隊長は、老人・こどもは村の忠魂碑前で自決せよと命令し」たと書いてある。これは真実か。
大阪地裁で一審が結審したあとの今年1月に、座間味島で宮平秀幸氏の新証言が明るみに出た。当時15歳の宮平氏は日本軍の伝令役をつとめていたが、昭和20年3月25日の夜、梅澤隊長のいる戦隊本部の壕に、集団自決用の武器弾薬を求めて村の幹部がやってきたとき、隊長からわずか2メートルのそばで村の幹部と梅澤隊長のやりとりを聞いていた。
その新証言によれば、梅澤隊長は武器弾薬を渡さなかっただけでなく、逆に、村民に「自決するな」と「命令」し、しかもそれを受けて村長が集団自決のために忠魂碑前に集まった村民を解散させていたのである。
控訴審で元隊長側は、宮平陳述書と大江・岩波側の批判に反論した私の意見書など大量の書証を提出して隊長命令説の誤りを論証した。
軍人の名誉回復を遮断
判決は隊長による「直接命令」については「真実性の証明があったとはいえない」とした。隊長命令を示す証拠は何一つないのだから、これは当然である。また、判決は、2冊の本の記述が原告の社会的評価を貶めること、すなわち名誉毀損に当たることも認めている。では、判決はなぜ出版差し止めの請求を認めなかったのだろうか。そこで用意されたのが次のような論理である。
発刊当時はその記述に真実性が認められ、長年にわたって読み継がれてきた書籍については、新しい資料の出現によりその真実性が覆ったような場合でも、直ちにそれだけで当該記述を改めない限りその書籍の出版を継続することが違法になると解することは相当ではない。判決はこう述べた上で、不法行為の成立が例外的に認められるケースとして@新たな資料等により当該記述の内容が真実でないことが明白になりA名誉を侵害された者がその後も重大な不利益を受け続けているなどの事情がある場合、という基準を示した。
これは一見すると妥当な基準のように見えるが、今回の裁判の現実とつきあわせてみるならば、絶対に実現しないことを見越した空論であることがわかる。
第1に、本件こそ@の基準に該当するはずなのに、判決は1月の宮平証言と陳述書の間に「変遷」があると誤読し、姪の宮城晴美氏が「身内の恥」などと宮平氏を人格的に攻撃した陳述書を丸ごと鵜呑みにして宮平証言を「明らかに虚言である」と断定した。
村の同調圧力にさらされながらも勇気をもって証言を決意した者に対する許し難い暴言である。これほど明白なケースでも、ノーベル賞作家を勝たせるため、難癖をつけて隊長の「直接命令」が「真実でないことが明白になったとまではいえない」と判決しているのだから、@の基準はどうにでもなる。
新基準は空手形に過ぎず
第2に、判決は『ある神話の背景』の出版を例に元隊長の名誉は回復されたなどとして、本件にはAの基準も当てはまらないとしている。そうすると、虚偽の記述によって過去に受けた被害、とりわけ「公務員」たる軍人の被害は救済されず、虚偽を明らかにした本が出たときはそれによってすでに重大な被害はなくなっているとみなされてしまうのだから、Aも被害者にとっては実質的に何の意味も持たなくなる。
要するに高裁判決の二つの基準は、実際には決して実現することのない空手形なのである。
約300ページにわたる控訴審判決は、一審の判決を追認したばかりでなく、一審判決をさらに補強し、真実でないことがわかっても長く読み継がれた本は訂正しなくてよいという、ノーベル賞作家にこれ以上ない特権を与えたのである。長く読み継がれたからこそ訂正が必要であるのに。
ただし、元隊長らの提訴は大きな意義があった。法廷の外の言論の世界では、隊長命令説は論破されている。裁判は教科書の記述見直しの契機ともなった。それに加えて、裁判官はバランス感覚をもった公正な判断をする人であるという幻想の間違いが白日のもとにさらされたことも「成果」の一つに付け加えておきたい。
藤岡信勝会長の名誉毀損訴訟 東京高裁に控訴
当会の藤岡信勝会長が八木秀次氏(教育再生機構理事長)を虚偽の情報を流布して名誉毀損行為を行ったとして訴えていた裁判で、去る10月31日、東京地裁は原告敗訴の判決を下しました。藤岡氏は、この判決を不服として11月10日、東京高裁に控訴しました。
◎お知らせ
月刊誌『自由』に次の論文が掲載されていますのでお知らせします。
10月号 渡辺眞理事「日本人の考えねばならぬこと」
11月号 吉永潤理事「新教育基本法の問題性と政治保守主義の課題」
12月号 九里幾久雄理事「小・中学校の教科書採択の謎」
上杉千年理事「靖国神社廃止論に通じる自民党首脳の発言を糺す」
|