第263号 平成21年 8月28日(金)


横浜市の教育委員の真摯な努力を愚弄する暴論
8月23日付朝日新聞社説への反論

                                              平成21年8月28日
                                         新しい歴史教科書をつくる会

  朝日新聞は8月23日、「つくる会教科書 横浜市の採択への懸念」と題する社説を掲載した。これは、当会が主導し、自由社が発行した『新編 新しい歴史教科書』(代表執筆者・藤岡信勝)が、8月4日、横浜市教育委員会の決定を経て、横浜市の18採択地区のうち、8地区、71中学校の約13,000人の生徒が使用することになった採択結果を批判したものである。
 しかし、その批判の内容は、極めて恣意的でずさんなものであり、また、横浜市の教育委員の真摯な取り組みを誹謗中傷するものである。当会としては、到底看過し得ないものであり、ここに公開で反論を表明することにした。

 根拠のないずさんな教科書批判
 社説は、「つくる会の教科書は、歴史の光と影、自分の国と他の国との扱いにバランスを欠き、教室で使うにはふさわしくないと考えざるを得ない」と述べている。しかし、教科書のどの部分をさしてそのような批判をしているのか、全く根拠を示していない。
 また、社説は、「天皇や神話を重視し、近現代史を日本に都合よく見ようとする歴史観が色濃く、中国への侵略、朝鮮半島の植民地支配については不十分なままだ。沖縄戦の集団自決にも触れていない」とも述べている。
 しかし、日本が天皇を中心に穏やかにして進取の気性に満ちた歴史を展開してきたことは、中国や韓国の歴史と比較して明らかなことである。そうした国家の形成過程で神話は重要な意味をもっており、中学校学習指導要領でも「神話・伝承などの学習を通して、当時の人々の信仰やものの見方などに気付かせるよう留意すること」と規定されている。つくる会の教科書は、この学習指導要領の規定に最も忠実に書かれた教科書にほかならない。
 また、近現代史においても、つくる会の歴史教科書は史実を歪めて記したところは一か所もない。これが、なぜ「日本に都合よく見ようとする歴史観」となるのか。反対に、中国や韓国の歴史教科書は、「南京大虐殺」などについて、史実を曲げてまで自国の歴史を「都合よく」見せようとしているが、朝日新聞は中国や韓国の教科書を一度として批判したことがあるだろうか。
 朝日新聞社説は、沖縄戦における集団自決についても触れていない、と批判している。しかし、沖縄県民の集団自決は、軍民一体の激しい対米戦の中、沖縄県民の壮絶な戦いの一環として起きたものである。それを日本軍の残虐性を示す事件に仕立て上げてクローズアップさせた経過がある。名指しされた当事者の隊長が、そのような軍命令はなかったと裁判で争っている問題を軽々に教科書に取り上げることには慎重であるべきだ。

 教育委員の真摯な努力への愚弄
 朝日新聞社説は、「気になるのは、横浜市教委の採択経緯が教育の現場の声を十分反映したものかどうか、疑念が残ることだ」と記し、市教委の諮問機関で、教員や保護者、学識者でつくる教科書取扱審議会の答申では自由社版を、「他民族の生活や文化の扱いがやや弱く、生徒の多様な見方や考え方を育てるにはやや適さない」とも評していたとする。そして、「どの区でも自由社版の評価はさほど高くはなかった」と、一方的に述べている。しかし、答申には各社の教科書についてプラス面とマイナス面を含め膨大な分析結果が書いてあり、 社説は、この答申からつくる会の教科書のマイナス面の記述のみを取り出し、あたかもつくる会の教科書のみがとりわけ低く記述されているかのような印象を与える、公正を欠いた記述となっている。
 横浜市の教育委員はなぜ自由社を選んだのか。委員会審議の傍聴者のメモによれば、教育委員から自由社版について、「中身が濃い」、「大人が読んでも面白い」、「装丁がすっきりしていて、きれいだ」、「女性も取り上げているし、文化の記述が多い」、「歴史の事象の背景について、原因と結果をきちんと説明している」、「先人がどういう風に生きてきたのか、深みをもって書いている」等々の具体的評価を与える発言がなされている。これらの評価は、実際に教科書を読み比べた人でなければ語ることのできない性質のものである。
 選挙で選ばれた市長の任命行為を通して、横浜市民の教育意思を代表しているのは教育委員であり、教育委員が審議会の答申を参考にすることはあっても、答申に拘束される義務はない。教育委員に諮問機関の答申通りの決定を求めるかのような朝日新聞社説は、法律で定められた教育委員の権限を空洞化し、教育委員をロボットにしようとする不当な批判である。それは同時に、子供のために少しでもよい教科書を選ぼうとした教育委員の努力を愚弄するものである。

 教育委員長の名誉を侵害する個人攻撃
 さらに、最も許し難いのは、朝日社説が、「今田忠彦教育委員長」という個人の実名を出して、「今回の採択には、市教委トップとなった今田氏の意向が強く反映されたのだろう」と述べていることだ。これは、あたかも今田教育委員長が独断で採択を進めたかのように事態を描き出す誹謗であり、いわれなき個人攻撃である。
 横浜市の18採択地区のうち、つくる会の教科書を採択しなかった10区中8区において教育委員の表決は「3対3」の同数であったが、「同数であれば従来の教科書を採択する」という今田教育委員長の裁定で、つくる会の教科書は採択されなかった。この事実に照らしても、朝日の個人攻撃には道理がない。
 大新聞が社説で個人名を出して誹謗する行為は、気に入らない者を社会的に抹殺しようとするペンの暴力であり、極めて卑劣な行為である。朝日社説は、教育委員への電話攻撃など不当な圧力を誘発・奨励するものといわれても仕方がない。現に、自由社には、横浜の教育委員の自宅にかけるつもりが番号間違いで抗議電話が掛かってきたとして、苦情を訴える電話が来ているほどである。
戦前は戦争を煽っておきながら、戦後は一面的な反戦平和・自虐史観を唱える朝日新聞は猛省すべきである。

【資料】朝日新聞8月23日付け社説
          「つくる会教科書 横浜市の採択への懸念」

 横浜市の市立中学校の約半数で来年春から新たに、「新しい歴史教科書をつくる会」主導で編集された歴史教科書を使うことが決まった。
 4年前の採択時期には、つくる会の歴史教科書の採択率は全国で0.4%にとどまった。今回は東京都杉並区、栃木県大田原市などが継続して使うことを決めているが、指定市では横浜が初めてだ。使用する学校の在籍生徒数も約3万9千人と最も多い。
 横浜市で採択されたのは、従来の扶桑社ではなく自由社から出されたものだ。内容の大部分はこれまでの版を踏襲し、今春検定に合格した。
 教科書検定は控えめにすべきだし、教科書は多様である方がいい。しかしそれでも、つくる会の教科書は、歴史の光と影、自分の国と他の国との扱いにバランスを欠き、教室で使うにはふさわしくないと考えざるを得ない。
 自由社版でもそれは同じだ。天皇や神話を重視し、近現代史を日本に都合よく見ようとする歴史観が色濃く、中国への侵略、朝鮮半島の植民地支配については不十分なままだ。沖縄戦の集団自決にも触れていない。
 気になるのは、横浜市教委の採択経緯が教育の現場の声を十分反映したものかどうか、疑念が残ることだ。
 市教委の付属機関で教員や保護者、学識者でつくる教科書取扱審議会が、自由社版を含む7社の候補を選定。18区それぞれの学力状況などに応じ、区ごとにも幾つかのふさわしい教科書を挙げて市教委に答申した。
 答申は自由社版を「他民族の生活や文化の扱いがやや弱く、生徒の多様な見方や考え方を育てるにはやや適さない」とも評した。どの区でも自由社版の評価はさほど高くはなかった。
 ところが市教委では、各区で現在使用中の教科書と自由社版の二つを比較する形で、委員が意見を述べた。その後、委員6人が無記名で投票し、八つの区で現行のものから自由社版に切り替わることになった。
 市教委の今田忠彦委員長は、4年前の採択時、市教委でただ一人、扶桑社版を採用すべきだと主張した委員だった。今回の採択には、市教委トップとなった今田氏の意向が強く反映されたのだろう。
 教科書の採択権限は教育委員会にあるが、実際に使うのは教師と生徒だ。現場の声を反映した審議会の答申が、どこかで自由社か否かの二者択一のようになってしまった。
 今田氏は自由社版を「愛国心」条項などが盛り込まれた改正教育基本法の趣旨に合っている、と評価する。しかしこの法律は同時に、他国を尊重する態度を養うことも求めている。こちらは満たしているだろうか。
 30日投票の横浜市長選に立候補している各候補者の意見も聞いてみたい。


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