第264号 平成21年 9月03日(金)


つくる会が採択結果について「声明」を発表
「つくる会歴史教科書」が2万冊を突破!
著作権訴訟は大局的見地から「控訴せず」

 新しい歴史教科書をつくる会は、本年度の教科書採択が終了したことを受けて9月3日、次の声明を発表しました。これにともない、つくる会は同日午後、文科省記者クラブで会見し、声明の内容について説明を行いました。会見には藤岡信勝会長、杉原誠四郎副会長、鈴木尚之事務局長が出席しました。

 
  歴史教科書の採択結果についての「つくる会」声明

平成21年9月3日
                      新しい歴史教科書をつくる会

 (1)自国の歴史を貶める自虐的な歴史教科書の誤りをただし、誇りある日本の歴史を取り戻すために活動してきた「新しい歴史教科書をつくる会」は、本年4月に文部科学省の検定に合格した自由社版『新編 新しい歴史教科書』の採択をめざした。
『新編 新しい歴史教科書』は、「伝統と文化の尊重」などを盛り込んだ改正教育基本法成立後に編集された唯一の教科書であり、新学習指導要領の学力重視の方針をいち早く取り入れた教科書としても、他社の追随を許さぬものであった。
 採択の結果は、現在「つくる会」が把握しているところでは、公立校の8採択区(横浜市の港南、旭、金沢、港北、香A青葉、都筑、瀬谷の各区)で約13,000冊、私立校では3校で約250冊が採択された。あわせて約13,250冊となり、来年度の中学1年生推定119万3200人の1.1%の採択率となった。これにより、「つくる会」の歴史教科書の採択率は、初めて「1%の壁」を突破した。
 これに加えて、扶桑社の『改訂版 新しい歴史教科書』(代表執筆者・藤岡信勝)の採択数約6,500冊、0.5%を加えると、「つくる会」の歴史教科書のシェアーは、推定1.6%となった。

 (2)本年の採択で特筆すべきことは、最大の政令指定都市横浜において、八つの採択地区で採用されたことである。公表された横浜市教育委員会の議事録には、教育委員の自由社に対する評価の発言が記録されている。
 それによれば、ある委員は「一長一短がある」としつつも、「非常に中身が濃くて詳しく書かれている。大人が読んでもおもしろい」と評された。また、別の委員は、「自由社の教科書はとても読みやすい。章の最後に簡単なまとめがあるのでわかりやすい。からくり人形の田中久重が取り上げられていることはエンジニアとして嬉しかった」と評された。さらに別の委員は、「原因と結果の関係については、自由社の教科書は非常にわかりやすい。当時の人がどういうことを意識して生きたのか、深みをもって書いている。日露戦争は愛情をもって記述するなど、他の教科書にはない特徴がある」と述べられている。
これらの記録を読むと、教育委員が実際に教科書を精読して判断されていることがよくわかる。生徒に少しでもよい教科書を与えようとする、教育委員各位のこうした真摯な努力の結果として自由社版が採択されたことに誇りを感じるとともに、関係各位のご努力に深甚なる敬意を表したい。

(3)今年度の採択では、中学社会・歴史的分野の教科書として、同じ代表執筆者による殆ど同一の趣旨の教科書であるにもかかわらず、4年前の検定に合格した扶桑社版と、今年の検定に合格した自由社版の二つの教科書が並立するという予想外の事態となった。自由社版の教科書は、「つくる会」が平成19年2月に扶桑社から関係解消の通告を受けたため、自由社の協力を得て発行することになったものであり、扶桑社版よりさらに改善した教科書として教育界に問うたものである。
 「つくる会」の執筆者グループは、今年度の採択で二つの教科書が並立する混乱を避けるため、採択戦が始まる前の本年3月までに、扶桑社版の出版を差し止める仮処分を求めて東京地裁に提訴した。しかし、東京地裁は原告が求めた期限内の仮処分による判断を事実上回避し、本訴の判決は採択戦がほぼ終了する8月25日にずれ込んで言い渡された。
裁判の最大の争点は、出版差し止めをさせないために扶桑社が持ち出した、@教科書は全体が著者と教科書会社の「共同著作物」であり、不可分一体であるから、著者には自分の著書であっても出版社の同意なしにその著書を絶版にすることはできない、という論理と、著者側が主張した、A小説家の書いた本文と挿絵画家の描いた挿絵を結合した新聞小説は「結合著作物」と呼ばれ、挿絵と切り離して本文のみを小説家の著作物として独立して出版することができるのと同じように、扶桑社版歴史教科書も原告の著者グループが書いた本文と扶桑社が制作した図版は分離して利用することが可能だから「結合著作物」であるとする論理のどちらが正当であるかということであった。Aの論理が正しければ、著者グループは、自らの著作権を行使して、扶桑社版の出版を差し止める権利を有することになる。
 判決は本件教科書が「結合著作物」であることを認め、扶桑社側の「共同著作物」であるとする主張を明確に退けた。最大の争点について、「つくる会」の執筆者側の主張が認められたのである。この点では、この判決は高く評価できるものである。
 
 (4)ところが、判決は、4年間という通常の採択期間が短縮された3年以下の採択期間(今回の場合は平成22・23年の2年間)については、著者と出版社の契約期間が自動継続するという論理を立てた被告・扶桑社側の「端境期論」を丸呑みし、結局、扶桑社版歴史教科書の出版差し止めを認めない被告側勝訴の結論を下した。
 これは不当な判断である。たとえ短縮された期間であっても、手続きは4年間の採択期間とまったく同一の、正規の採択期間であることに変わりはない。現実に横浜市のように以前とは違う教科書を採択しているところもある。判決は教科書検定・採択制度の根幹を否定する、到底認めがたいものである。
 そもそも教科書は、著者が最善の教科書を子供たちに提供しようとして作成するものであり、一つの採択期間が終われば、さらなる最善の教科書を提供するために修正・改善すべきところはないか、出版社と著者が協議して次の採択期間に対処すべきものである。本件では、扶桑社の側から著者に対してそのような協議の申し入れはいっさいなく、関係解消を通告された著者側が明瞭に継続発行を拒否している状況で、出版元である扶桑社の意思だけで一方的に継続発行を決定できるとする判示は失当といわなければならない。

 (5)現在、「つくる会」は、判決後2週間以内に、控訴するかどうかを決定しなければならない立場に置かれている。この問題を慎重に検討した結果、「つくる会」としては、この際、控訴せず、判決の執行部分のみ受け入れて、この問題に決着をつけることとした。

 その理由は、扶桑社版といえども「藤岡信勝」を代表執筆者とする「つくる会」の歴史教科書であることは紛れもない事実であり、著者グループの意思に反して出版し続けた扶桑社の行為は認められないとしても、扶桑社版を採択された教育委員会や学校の勇気ある決断には「つくる会」として深い敬意を持っており、すでに採択された扶桑社版について、採択のやり直しを求める事態になることは望ましくないからである。
 「つくる会」としては、このような大局的見地に立ち、教科書正常化運動の前進という「公」の利益のために控訴を取りやめる決断をしたものである。8月に亡くなられた教科書運動の先達である故上杉千年・元つくる会理事は、会報「史」の本年3月号に、教科・領域による保守系教科書の「棲み分け論」を提起されていた。「つくる会」として上杉氏のこの提言の趣旨を受け止め、保守系運動の大同団結のために改めて関係各位に「棲み分け論」を問題提起したいと考える。

 (6)「つくる会」は、来年4月に、会の設立趣意書にもとづき、新学習指導要領の内容を全面的に反映し、現行版よりもさらにバージョンアップした、中学校の歴史と公民の教科書を自由社から検定申請する予定である。
 関係各位の引き続くご支援とご指導を切にお願いする次第である。

        

※注記

昨日、文科省で記者会見を行い、採択結果について発表しました。その後、4日付の産経新聞の記事によって数字を補正し、採択率を計算し直しました。その結果、「つくる会」歴史教科書を使用する中学生が2万人の大台を超え、採択率は1.68パーセントになることがわかりました。以下はそのデータです。

■平成21年「つくる会」歴史教科書の採択校・採択率データ(平成21.9.4現在)

◇自由社『新編 新しい歴史教科書』採択地区・学校
・公立 8採択区(横浜市)             1万3000人
・私立 3校              250人
・合計                           1万3250人(A)
・平成22年度中学1年生
 (但し、数字は文科省統計から平成20年度の小学校5年生の人数)
                           119万2310人(B)
                   採択率 (A)÷(B)= 1.11%(C)

◇扶桑社『改訂版 新しい歴史教科書』採択地区・学校
・公立  杉並区 大田原市 今治市 東京都 愛媛県 (滋賀県は東書に変更)
・私立  浪速中学校(新規) 他前回採択校の大部分
・合計                             6800人
                   採択率          0.57%(D)

◇「つくる会」歴史教科書の合計採択率 
・合計     2万0050人
                    採択率 (C)+(D)= 1.68% 

上杉千年理事が逝去されました

つくる会理事で歴史教科書運動の先達、上杉千年先生におかれましては、かねてより病気療養中のところ、薬石効なく、さる8月4日、永眠されました。享年82。上杉千年理事の生前のご功績を称え、謹んでお悔やみ申し上げます。葬儀は故人の遺志に従い、密葬でとりおこなわれました。


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