平成16(2004)年2月4日(水)
「大学入試センター試験の「強制連行」出題
受験生が採点の除外求め仮処分命令申し立て
 
 1月17日に行われた大学入試センター試験の世界史(A・B共通設問)に、(日本統治下の朝鮮において)「第二次世界大戦中、日本への強制連行が行われた」を正解とする設問が出題された件に関して、2月3日午後、世界史Bの試験を受けた受験生(20歳)が、当該設問は憲法の保障する思想良心の自由に違反しているとして、大学入試センターに対し、この問題を採点から除外することを求める仮処分命令申立を、東京地裁に行った。

 申立書ならびに陳述書によると、受験生にとって「本件設問は、大学入試センターが一定の思想的立場に立って受験生を選別し、特定の思想的立場を受験生にとるように、まさに思想強制をすることにつながる」問題であり、受験生はこの設問が心に重くのしかかって平常心を失い、深い心理的動揺を受けるとともに、冒頭第1問にこのような欠陥問題が出されたことにより、他の問題への取組みに悪影響を与えた。それだけではなく、「本件設問によって、センター試験に対する根本的な不信感や嫌悪感」が生まれ、その心理的ダメージは、その後の他の試験にも継続し、その「精神的ショックは未だに癒されることなく今日まで継続している」という。

 なお、代理人弁護士によると、受験生の受験終了後の3月下旬に本訴を予定しているとのことである。

 「新しい歴史教科書をつくる会」と本訴訟の関わりについて付記すると、センター試験問題が社会的問題になった1月20日過ぎ、受験生より知人を介して代理人となった高池勝彦、内田智両弁護士に相談が持ちこまれ、その後、両弁護士より「つくる会」に対して本問題に関する資料・情報の提供の要請があった。「つくる会」では、受験生の勇気ある決断に敬意を表するとともに、両弁護士に対して関係資料を提供する等、全面的に協力することに決定した次第である。なお、本件の代理人弁護士には高池、内田両弁護士からの協力呼びかけに全国各地の弁護士が応諾、申立書には20名の弁護士が名を連ねている。

 2日午後の提訴後、高池・内田両弁護士と中島弁護士の3名が裁判所内の司法記者クラブにて記者会見を行い、クラブ加盟各社の記者が出席したが、まことに遺憾ながら産経新聞が翌日簡単に報じた以外は一切黙殺し報道しなかった。そこで、「つくる会」では、代理人弁護士を通じて受験生本人の承諾を得て、陳述書ならびに申立書を公開、本訴訟への国民各界各層の幅広い支援を要請する次第である。

陳述書
1、私は、今般実施された平成16年度の大学入試センター試験(以下、センター試験といいます。)を○○大学を試験会場として受験した、○○大学進学を希望する受験生です。私は、平成16年1月17日のセンター試験初日の二科目目として世界史Bの試験に臨みましたが、その際に以下に述べるとおり大変な被害を蒙りました。裁判所による法的な救済を強く望みますので、裁判所に対して事実を申し述べさせて頂きます。

2、世界史Bの試験の第一問は、「世界各地のナショナリズム」について述べた文章を受験生に読ませて、問いに対して答えさせる問題でした。第一問の問5の設問(以下、本件設問といいます。)は、問題自体がどう考えても非常におかしな誤った出題であって、正しい解答ができないものでした。
 すなわち本件設問は、「日本統治下の朝鮮」について述べた文として「正しいもの」を(1)から(4)の4つの文のうちから一つ選べというもので、4つの文のうちに正しいものがあることを前提にしている問題でしたが、(1)から(3)の文が歴史的事実から誤りであることは明らかですし、こういう認識があるとは承知していたものの(4)の文も誤りであり、正しいものがなかったからです。

3、試験後に発表されたセンター試験の正解によれば、「(4)第二次世界大戦中、日本への強制連行が行われた。」の文が「正しいもの」であるとのことですが、この文は正しくありません。
 何故なら、史実によれば、第二次世界大戦中である昭和19年9月から日本統
治下の朝鮮において「国民徴用令」にもとづく徴用が実施されたに過ぎず、日本国家による国民に対する徴用という合法的な行為について、「強制連行」とはそもそも呼べないからです。
「強制連行」なる言葉は、悪質な違法行為を意味しており、近年になって一定
の政治的見解に立って戦前の日本を非難するために使用されるようになった暖昧
2
 
な言葉です。第二次大戦中には存在しなかった言葉で、歴史的事実をねじ曲げて表現してよいのでしょうか。
 また、一部の学者の見解に立って、国民に対して少しでも強制的な要素がある行為を、「日本統治下の朝鮮」では、最近は「強制連行」と呼ぶのだ、と仮定してみたとすると、そのような強制的要素のある行為は「第二次世界大戦中」には限らないことになります。“強制的要素”の概念がはっきり定義されない限りは、日本統治下の朝鮮における様々の日本国政府の行為を「強制連行」と呼ぶことができます。僅か数年間の「第二次大戦中」(本件設問)の期間内に限らず、そのような「強制連行」が行われていると言うことができますから、(4)の文は誤りとなります。

4、私は、以上のように様々のことを考えざるを得ませんでした。そして、(1)から(3)の文が事実に反して正解でないことが明白である以上、試験問題に対する受験生としては無理をしても(4)の解答をせざるを得ないと苦渋の決断をしました。
 何故、苦渋の決断であるかの理由を申します。
 私は、これまで習得してきた歴史的事実の知識からすれば、そして上記のとおりの論理的な分析からすれば、本件設問の(4)は正解ではないと判断しました。私の思想信条にも反することです。したがって誤った設問に対しては解答ができないのですから、解答欄をブランク(空白)にするべきであったかも知れません。しかし、一方、受験生の立場としては得点を得るみすみす機会を逃すわけにもいかず、(4)を正解として解答することとしました。

5、本件設問は、大学入試センターが一定の思想的立場に立って受験生を選別し、特定の思想的立場を受験生に対してとるように、まさに思想強制をすることにつながることと思います。適法に「国民徴用令」によって「日本統治下の朝鮮」の国民を動員したという歴史的事実を、最近になって一定の政治的見解に基づいてできた造語(政治的非難を込めた言葉)で呼ぶことが、「正しい」ことである、
 
そのように同調できない者には不合格という不利益を与えるぞと言って、弱い立場にある受験生に一定の思想を押しつけようとしたと言うことが出来ると思います。

6、センター試験の結果によって入学する大学という場所は、思想良心の自由を学ぶ場ではないのでしょうか。センター試験において受験生の思想信条を害することが許されるとは思いません。
 また受験生には、日本国憲法による思想良心の自由やその他の権利は保障されないのでしようか。受験生といえども文部科学省の監督のもとに公正に行われるべき大学入試において憲法上の権利保障がまもられるべきです。
 また歴史的事実をねじ曲げるような宣伝活動、一種の政治的活動を大学入試の場で行っても良いのでしょうか?本件設問の出題の背景にはそのような許されない動機があるように思います。

7、本件設問は、一受験生である私の心に重くのしかかってきて平常心を失わせ深い心理的動揺を与えました。世界史について言えば、冒頭の第一問においてこのような欠陥問題が出されたことによって、他の問題(第四問まであります)への取り組みに悪影響がありました。のみならず、本件設問によって、センター試験に対する根本的な不信感や嫌悪感が私にもたらされました。このことによる心理的ダメージは、センター試験の初日にこの問題が出されたため、引き続く二日目の試験日にも継続しました。そのため、私の円滑なセンター試験の受験が阻害されました。この精神的ショックは未だに癒されることなく今日まで継続しております。

8、私としては、大学入試センターが本件設問の出題を反省して今からでもせめて出題からはずす処分をして頂くことを切に望みます。そうでない限りは、本件設問が出題されたことによって私にもたらされたセンター試験に対する根本的な不
 
信感・嫌悪感は到底、拭い去れることはありえません。大学入試センターにおかれましては裁判所からの判断による強制を待つことなく、自主的に多くの受験生に生じたセンター試験へめ不信感を除去する努力するべきであるとさえ思っている次第です。
 
仮処分命令申立書
平成16年2月3日
東京地方裁判所民事第9部 御中
債権者代理人弁護士 高池勝彦
同 内田 智
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
仮処分により保全すべき権利 思想及び良心の自由、ならびに適正な入試採点を取得する権利
申立ての趣旨
債務者は、別紙物件目録記載の設問(問5)を採点から除外せよ。
申立費用は債務者の負担とする。
との裁判を求める。
申立ての理由
第1 被保全権利
1 債権者は、現在大学入学のための受験勉強中の受験生(浪人中)であり、平
成16年1月17日全国いっせいに行われた債務者独立行政法人大学入試セ ンターが大学入試センター試験利用大学と共同で実施された大学入試センタ
 
一試験(センター試験)を受験した。
2  センター試験の仕組は、別紙「センター試験の仕組み」記載のとおりである。センター試験は、すべての国公立大学と約7割の私立大学が利用する試験で (甲第1号証)、それらの大学に入学しようとする者は、事実上必ず受験しなければならないものである。したがって、試験の内容は適正かつ公正なものでなければ受験生は正しい解答をすることができず、その結果志望大学に入学できないなどの重大な不利益をこうむることになる。
3 センター試験の運営は、別紙「センター試験の運営」記載のとおりであり、試験問題や採点はすべて債務者が行っている。
4 債権者は、前述のとおり、平成16年1月17日全国いっせいに行われたセンター試験(本件センター試験)を受験したのであるが、別紙世界史Bの第1、問の問5に誤った設問が出されたために、動揺し、他の設問についても冷静に回答できない事態に直面した。
5 それは、日本統治下の朝鮮について述べた文として正しいものを、四つの選択肢から選ばせるという形式の問題で、正解とされたのは、「第二次世界大戦中、日本への強制連行が行われた」(本件設問)というものである。これは、以下のとおり、選択肢中に正解がない設問である。
1)ここで使われている「強制連行」という悪質な違法行為を意味する用語は、最近になってから日本を糾弾するための政治的な意味合いをもって造語された言葉であって、事実をあらわすものではない。
2)日本統治下の朝鮮においては、「国民徴用令」にもとづく徴用が昭和19年9月から実施されたので、設問は、対応する歴史的事実としては、この徴用を想定していると推定される。しかし、当時は朝鮮半島の人々も日本国民だったのであり、徴用は国家による合法的行為であった。この設問は、日本政府が第二次大戦中、朝鮮人に対して違法行為を行ったという虚構の歴史を、大学受験という制度を利用して日本国民に押しつけようとするものである。
 
3)徴用を「強制連行」とは異なるものであると正しく理解している受験生にとって、この設問の選択肢に正解はない。このような問題は、特定の思想を受け入れるかどうかによって解答の成否が決まり、大学入学を認められるという思想チェックの問題であり、憲法の保障する思想良心の自由に違反している。
4)「朝鮮人強制連行」は歴史的事実でないばかりか、政府見解とも異なる。周知のように、北朝鮮は、日本人を多数拉致しており、拉致された日本人を返還せよとの日本政府の要求に対して、北朝鮮政府は日本が朝鮮統治時代に朝鮮人を強制連行したと主張している。これに対して、日本政府は、そのようなことは事実ではないと、国会でも国連でも主張している(甲第2号証)。
5)多数の世界史教科書に「朝鮮人強制連行」の記載がないだけでなく、受験 生の間で、世界史Bについて定評ある全国歴史教育研究協議会編『改定新版世界史B用語集』(山川出版発行、第一版平成12年発行、同版7刷平成15年3月)にも「強制連行」の用語は収録されていない。出題は公平でなければならないセンター試験にこのような設問は極めて不適切である。
6)さらに、朝鮮半島において強制連行があったと信じている受験生にとっても、正解がない設問である。なぜなら、どの時期のできごとを強制連行とよぶか、その定義は人によってまちまちである。すなわち、この問題はどういう立場に立っても、正解のない、いびつな欠陥問題である。
6 本件設問が極めて不適切であるとの指摘は各方面から寄せられている(甲3 号証)。
7 なんとかしてよい点をとって大学に入学したいと考えている受験生にとって、本件設問を正解に選択させることによって、その受験生の思想及び良心自 由を踏みにじるものである。
8 受験生が公正な内容のセンター試験を受ける権利は、憲法第13条および第 26条に由来し、その結果、受験生は、債務者に対して適正な入試採点を取得
 
する権利を有する。

第2 保全の必要性
1 債権者は、本件センター試験の結果をふまえて、2次試験に臨まなければならない。2次試験は前記日程が2月25日から、後記日程が3月12日から、公立大学の中期日程は3月8日から始まることになっている(甲第4号証)。
2 債権者は、本件設問で受けた動揺について債務者に対して損害賠償を請求する本訴を予定しているが、その結果を待っていては債権者の不利益が解消されないまま、2次試験となってしまうので、本申立に及ぶ。

疎明方法
甲1 インターネットより印刷(センター試験の役割)
甲2 インターネットより印刷(日本政府が朝鮮人の強制連行がなかったとしていること)
甲3 新聞記事、杜説、その他(本件設問が極めて不適切であること)
甲4 インターネットより印刷(共通2次試験の日程)
甲5 陳述書(被保全権利の存在およぴ保全の必要性)

添付書類
1 甲号証 各1通
2 資格証明書 1通
3 訴訟委任状 1通