つくる会の歩み
教科書問題の遍歴
愛媛の勝利
東京の採択

東京都教育委員会は、平成16年8月26日、第13回定例会を開催し、平成17年開校の都立中高一貫6年制学校(中高一貫校)中学校用教科書として扶桑社発行の『新しい歴史教科書』を採択しました。
会議は公開され、まず教育委員による無記名投票を行いました。その結果、「歴史」については、5人が扶桑社、1人が帝国書院の教科書を支持しました。それをもとにした協議を経て異議なく扶桑社に決まりました。
今回の採択は、学習指導要領と東京都の教育方針を踏まえ、中高一貫教育と学校の特色を考慮し、より専門的な調査研究を行なった結果によるものです。平成14年の愛媛県立中高一貫校(3校)の採択につづく快挙です。
都教委が『新しい歴史教科書』を採択
副会長・採択本部長  藤岡信勝
「静かに見守る」という基本方針
  いよいよ第二期採択戦の最後の一年のスタートです。トラックレースで言えば、最後の一周のゴングがなったことになります。この時期に、来年の戦いのための橋頭塗となる成果が生まれました。

  東京都教育委員会は、八月二十六日午前に開かれた定例会で、平成十七年度に開校する都立中高一貫六年生学校(台東区に設置、学年定員百六十名)の中学校用教科書の採択を行い、社会科歴史的分野の教科書として、扶桑社の『新しい歴史教科書」を採択しました。これは一昨年の愛媛県における中高一貫校三校の採択に続く、一般の公立学
校として二番目のケースになります。「つくる会」は今回の都教委による教科書採択に際し、以下のような情勢分析と方針で臨みました。

  まず、都教委の六人の教育委員の顔ぶれは次の通りです。▽教育委員長・清水司(東京家政大学理事長)、▽教育長・横山洋吉、▽教育委員・国分正明(元文部事務次官)、鳥海巌(元丸紅会長)、米長邦雄(永世棋聖)、内館牧子(脚本家)三年前の一斉採択の時に、都教委はすでに都立養護学校中等部の一部に、『新しい歴史教科書』を採択していました。採択したということは、八社の歴史教科書の中で扶桑社が最も優れていると判断したことを意味します。そして、対象となる検定済み教科書は、日本書籍の会社名が「日本書籍新社」と変わっただけで、三年前と全く同じです。この間、各教科書会社から文科省への自主申告による微修正は含みますが、それは大勢に影響するものではありません。他方、選定する委員も、内館牧子氏が新任であるほかは同じ顔ぶれです。ですから、よほどのことがない限り、今回も都教委は扶桑社を採択するのが順当であると考えられ
ました。

  とはいえ、この条件は二年前の愛媛県教委の時も全く同じで、あのときは猛烈な採択妨害運動が展開されました。私たちは県教委の公正な採択が侵害されないよう、対抗して大規模な運動を展開しました。

  私は、平成十三年六月五日の理事会で「愛媛問題対策本部長」に就任するよう、命じられました。「つくる会」の会員の皆様には、愛媛問題の緊急性を訴える特別の封書をお送りし、また、本誌『史」の七月号で、「愛媛を守るたたかい」への全会員の行動を呼びかけるアピールを行いました。その中で、@知事、教育長に激励の手紙、はがき、ファックス、eメールを送ること、A署名に取り組むこと、B集会に参加すること、の三つの具体的行動をお願いしました。これに応えて多くの会員の方々が積極的に行動してくださいました。署名数は全国で四十一万人に達し、反対陣営を圧倒しました。

  この愛媛の時とは異なって、今回の都教委の採択に当たり「つくる会」は、「都教委の良識を信頼し、静かに結果を見守る」という基本方針で臨みました。これは、愛媛の時とは異なる次のような三つの新しい条件が生まれたことに基づくものです。

愛媛とは異なる三つの新しい条件
  第一に、文科省は、愛媛の採択が終了した直後、全国の教育委員会に通知を発し、「静誼(せいひつ)な採択環境」を確保することを指示しました。これは一斉採択の際に、テロを含む外部からの強制力によって採択の公正が侵害されかねない事態が生まれたことへの反省を文科省として文書に表したものと解釈できます。この中で、警察との協力や、状況に応じて教育委員会の会議を非公開にするなどの措置の検討を求めました。この通知によって、もし何かの事態が起これば、反対派にとってかえってマイナスの効果を生んでしまうような環境が整えられたと判断できます。

  第二に、東京では前回の採択後に行われた知事選挙で、現職の石原慎太郎知事が圧倒的多数で再選され、都民の支持は一層揺るぎのないものとなっていました。その石原知事が任命した教育委員が多数を占める都教委が、外部の影響を受けてスジをねじ曲げるようなことがあるとは考えられませんでした。

  第三に、反対陣営も、愛媛の敗北の経験に加えて右のような状況があり、反対運動も盛り上がりに欠けることが予想されました。反対派はいずれにせよ、中・韓・北朝鮮の外圧を利用してくるに違いありませんが、この問の情勢の変化によって、彼らの干渉が日本国民に対し前回ほどの「もっともらしさ」をそなえ、効果をもたらすことは難しいであろうと判断されました。

  こうした三つの新しい条件が生まれていることを考慮し、今回の基本方針を確立したのです。
失敗した採択妨害の反対運動
  右のような基本方針に基づき、本部のマスコミヘの対応の原則も変えました。愛媛では、マスコミの取材には積極的に応じ、現地中心ではありますが当方からも記者会見を申し込み、積極的な態度表明に努めました。それに対し、今回は、マスコミの取材には、「静誼な採択環境」を尊重する立場から、原則として応じないこととしました。こちらが取材に応じれば、反対派と両方のコメントが揃うので、マスコミは問題を大きくすることができるのです。その手に乗らないようにしました。とはいえ、右の基本方針に関して、二点の補足をしておく必要があります。

  第一に、「静かに見守る」ということは、愛媛の時のような表だった大衆的な動員に基づく一斉行動を行わないということで、何もしないことではありません。実は、今回、本部としても東京支部としても積極的な情報収集活動を行い、大きな成果を収めました。

  第二に、反対運動がもし重大視しなければならないほど盛り上がった場合は、それに対応する行動をとることをためらうものではないということです。

  反対派は、結果的にも運動を大きく盛り上げることに失敗しました。反対署名数は新聞報道によれば二万八千でした。これは二年前の愛媛の三万二千を下回るものです。マスコミの大きな話題にもなりませんでした。

  愛媛と東京で得た貴重な運動上の経験を全面的に生かして、来年の採択戦に臨みたいと思います。今、その決意を胸に刻んでおります。
(平成16年9月号『史』より)
協議の中での扶桑社の教科書を推す委員 (『産経新聞』8月27日付より)

元文部事務次官・国分正明委員

「都教委の方針の中に、伝統とか文化を尊重するというのがあり、方針に合っている教科書」

「私のところにも多くの要請だか抗議だか分からないはがきが来ているが、99%が同じ文言。その中で『戦争を賛美して、戦争への道を開く』という表現があるが、この人たちは教科書を読んでいないのではないか。扶桑社の教科書の中で、例えば日中戦争をかなり批判的に書いているし、コラムで見開きで戦争の悲惨さを強く訴えていて、なんでこの教科書が戦争へ導く教科書であるか、よく分からない」

永世棋聖・米長邦雄委員

「都教委は3年前、この教科書が一番よいという見解を出している」

東京都教育委員会による教科書採択に関する声明
平成16年8月26日
1. 本日、8月26日、東京都教育委員会は、来年度開校する都立中高一貫校の教科書として、扶桑社発行の『新しい歴史教科書』を採択した。都教委が、一昨年の愛媛県教委による中高一貫校(3校)の採択に続き、採択権者としての教育委員会の権限と責任にもとづき、子どもたちと我が国の将来を左右する教科書採択に高い見識を示されたことに心より敬意を表する。
   
2. 東京都教育委員会は、平成13年の全国一斉採択にあたり、文部科学省の改善指導を真摯に受け止め、同年2月、横山教育長名にて区市町村教委に対して「教科書採択事務の改善について(通知)」を発した。その中で、「新学習指導要領に示された各教科・分野の『目標』等を最もよく踏まえている教科書を選定する」ことを求め、中学校社会科歴史的分野の「我が国の歴史に対する愛情を深め、国民としての自覚を育てる」という目標を例示した。この通知は教科書採択の抜本的改善策を具体的に指示したもので、都教委は同年夏の都立養護学校中学部の採択にあたって自ら率先してその範を示された。
   
3. その際の記者会見にて、横山教育長は、扶桑社版教科書の採択理由について、「学習指導要領の目標をもっとも踏まえて編さんされている」とした上で、「わが国の歴史に対する愛情を深めることに重点を置く構成になっていると判断した」と述べているが、本日の採択も同様の理由でなされたものと理解している。東京都教育委員会があらためて前記指導通知の徹底への強い意思を示し、毅然とした指導力を発揮されたことに深く敬意を表する次第である。来年の採択にあたっては、東京都の各採択区の教育委員会をはじめ全国の教育委員会が、都教委の方針をふまえ、参考にされるよう強く期待したい。
   
4. 文部科学省は、異常な環境のもとに行われた平成13年の教科書採択の実態を重視し、翌14年8月末、各都道府県教育委員会教育長宛に「教科書制度の改善について」を通知した。この中で調査研究の充実に向けた条件整備及び採択手続きの改善についての具体的な方策を提示した。なかでも前回の採択をふまえた改善策として注目されるのは、「静ひつな採択環境の確保」が特記されたことである。採択権者である教育委員により、学習指導要領の「目的」及び「内容」を観点とした適正かつ公正な採択がなされるためには、前回の採択時にみられた外部からの組織的かつ暴力的な圧力は断固として排除されねばならない。
   
5. 今回の東京都教育委員会の採択にあたっても、扶桑社版教科書の採択妨害のみを目的とした政治的かつ組織的な動きが一部にみられた。幸い、都教委が毅然とした姿勢を貫かれたため混乱は生じなかったが、本会は、今後このような誹謗・中傷に満ちた妨害行為がなされないよう、文部科学省をはじめとする関係機関に適切な措置を求めていく。報道関係各位には、前回の異常な採択環境を惹起した一因が加熱したマスコミ報道であったことを自覚され、適正かつ公正な採択を実現するため、特定教科書の採択妨害行為の報道については慎重を期していただくよう、強く要望する。

新しい歴史教科書をつくる会