平成15年5月号(通巻38号)より
リレー随想
「日本国憲法」成立過程をめぐる虚構こそ教科書問題の核心
大月短期大学教授  小山常美
  五月に入って、扶桑社以外の七社の中学校公民教科書を、「日本国憲法」成立過程に関する叙述をめぐって読んでみた。その中で、目を引いたのが、日本書籍と帝国書院の叙述である。

 日本書籍は、「日本が再び侵略戦争(強調部は引用者、以下同一)をしないようにする」(85頁)ために、GHQは明治憲法の改正を考え、「各政党や市民たちの手でつくられていたさまざまな憲法改正草案を参考にして、新しい憲法草案を作り、政府に示した。これをもとにして、新しい議会の審議をへて…施行されたのが、…日本国憲法である」(同)と述べている。

 一重下線部はまっかな嘘である。あくまでGHQは、米国憲法や人権宣言などを参考にして草案をつくったからである。こんな記述がよくも検定を通ったものだと思う。

 また、ここで、「侵略戦争」という物語が出てくることに注目されたい。第九条の個所でも、日本書籍は、「日本が過去にアジア諸国に侵略戦争をおこなったことを反省し、再び戦争をおこさないと決意し、国際平和に貢献することを望んだから」(86頁)、戦争と軍備を放棄したと述べている。

 日本書籍以上にデタラメな叙述をしているのが、帝国書院である。帝国書院は、具体的な成立過程は省略してしまい、「日本国憲法は、悲惨な戦争を二度とくりかえすまい、という国民の願いから生まれました」(97頁)とするだけである。これでは、生徒は、日本側が100%自主的に「日本国憲法」をつくったと誤解してしまうだろう。

 このように、公民教科書は、いかがわしい作られ方をした「日本国憲法」を有効なものと位置づけるために、基本的には日本側が自主的に作ったのだとする虚構とともに、戦争が悲惨であったこと、または「侵略戦争」であったことを強調する。そして、歴史教科書は、「侵略戦争」の中でも犯罪的な「侵略戦争」であったとするために、「南京大虐殺」と朝鮮人70万人「強制連行」という二つの虚構を語るのである。

 それゆえ、「日本国憲法」成立過程に関する教科書の説明は、右の二つの虚構と並んで、近現代史における三大虚構ともいうべきものである。しかも、三大虚構の中心に位置している。「日本国憲法」成立過程における虚構を崩すことは、教科書問題で最も重要な課題であると強調しておきたい。

こやま・つねみ
昭和24年、石川県生まれ。京都大学大学院教育学研究科博士課程単位取得。専攻は日本教育史、日本憲法史、日本政治思想史。現在、大月短期大学教授。主著に『天皇機関説と国民教育』(アカデミア出版会)、『戦後教育と日本国憲法』、『歴史教科書の歴史』、『「日本国憲法」無効論』(以上、草思社)など。