平成19年1月号(通巻60号)より
視点 教育委員会と教育局の実態
 
九里幾久雄(くのりいくお) 理事・浦和大学理事長

 藤岡信勝氏の著書で昨年出版された『教科書採択の真相』が、日本で最初の「採択」に焦点をおいた研究だと言うから驚く。戦後、内容の研究書は山のようにあるが、「採択」の実態は闇に包まれていた。関心が無かったからであろう。そこにつけ込んだのが左翼日教組勢力と、それに結びついて営業成績をねらった出版社である。これらの赤裸々な実態については、前掲藤岡氏の著書が詳述しているのでそれに譲りたい。
 一点だけ指摘するならば、藤岡氏はここで採択困難な問題として「三つの壁」を挙げている。一つは中国・韓国の非難・妨害、一つはそれと呼応する日本の新聞、左翼組織、そして最大の壁に第三の壁があり、それが教科書出版社と現場教員(教育界)との綿密かつ隠微な結合を語っている。第一回採択直後の「つくる会」シンポジウムで、私が隔靴掻痒の思いがしたのも、採択戦を戦った西尾、小林、高橋氏等の諸氏が悲憤僚慨したのもこの第三の壁を知らなかったからである。
 しかし私はここで第三の壁以上の壁、第四の壁(ここが本丸である)を指摘しておきたい。それは誰もが教育委員会の重要性(法的)を語るが、その背後にある巨大な事務局(教育局)の存在と決定的な役割を指摘しない。理事会、評議会、総会等でこの四〜五年間私は『教育局』という用語すら一度も聞いたことが無い。その長が教育長であり、これは誰でも知っているが、その下の組織と役割にはどうも無関心のようだ。
 過去に私は五年間、局の指導課に勤務し、その採択の経路を熟知している人間として、まことに歯がゆい。どの組織にも書記局(事務局)があるが、下働き程度のものもある。しかし、教育委員会の権限(地教行法二十三条の十九項目)の膨大な内容の実に九九%は事務局が素案を作るのである。ここでは残念ながら字数が少ないので、要点のごく一部しか書けないが、私は声を大にして各支部・会員に呼びかけたい。
 各県市の事務局の仕事と役割の総点検である。埼玉県は大県であるので、県教育局の職員数は二千名に近く(外局を含む)、知事傘下の一つの部局の五倍から十倍である。教育委員は四、五名、一ケ月一回(半日)開催されるだけ。まるで巨大な鯨の上に委員が五粒乗っているようなものである。権限事項二十三条の十九項目が、学校の設立、管理、運営、人事、財務などあらゆるものをかかえている。質的にもレベルの高い判断が必要で専門の局員なしでは決定出来ない。
 日本の教育は、文部省ではなく(一部の基準を作成してるだけ)その実質はことごとく教育委員会ですらなく、「教育局」なるものが握っている。そしてその実態は全く五十年間、籔の中だったのである。