平成20年1月号(通巻66号)より

良質の自衛隊員と学校教育
 
加瀬英明(かせひであき) 顧問・外交評論家

 防衛省が六月に、『防衛力の人的側面についての抜本的改革』と題する報告書を発表した。前年九月から検討会を設けて研究を進めてきたが、百十一ぺージにわたっている。
自衛隊は少子化が進むなかで、隊員の募集と優秀な若者の確保が困難になっている。隊員の高齢化が進み、世界で平均年齢が三十二歳を超えるもっとも高い軍隊となっている。冒頭で「問題意識」として、「今後、募集対象人口が減少する中で、(略)良質の人材確保が困難となるおそれがある。(略)より高い質を持った自衛官を確保し」と述べており、危機感が伝わってくる。
検討会には「特別委員」として、横浜銀行頭取、野村証券社長、テレビのキャスター、大学教授などが連なっている。
めくってゆくと、「(ハローワーク)のより一層の協力を得る」とか、「職業や能力開発などの情報提供などのサービスを行う『ジョブカフェ』についても活用方法等」について検討するというように、苦心がうかがえる。
「自衛隊で暫定的に勤務する制度(レンタル移籍制度)の創設」という項目がある。「『レンタル移籍』を検討していきたい。これは、他の公的部門や民間企業に採用された若手職員、あるいは内定を受けた者を二年及至三年の期間、自衛隊の任期制自衛官として勤務させ」というが、ビデオや自転車であるまいし、人間にレンタルという言葉を使うのは、人の尊厳を傷つけるものだ。英語では、人についてrentalとけっしていわない。
この程度の外国語の知識しかない人々が、国防について論議してよいものだろうか。
「身体検査基準の見直し」という項目がある。採用試験では「不合格者の約四割が、体重の過不足、視力による(略)視力については、平成十九年四月から条件を緩和し、また、二士の採用試験において、体重の過不足者等について改善が見込まれる者を条件付き合格とするといった柔軟な運用など」の対策を講じているという。また「身体検査基準に規定されていない」が、「握力不足のために射撃ができない者、ソフトボール投げができない者が入隊していた事例」もあるという。
待遇の改善、専門知識の向上、退職後の職業訓練の再構築など多岐にわたって、「抜本的改革」について知恵が絞られている。
だが、肝心な点が見落とされている。どうして「良質」な若者が自衛隊にこないのかといえば、小中高校教育で国防の重要性について、まったく教えていないからだ。青少年のなかに自衛隊に憧れる者がいないのは、そのためである。学校教育を正さないかぎり、「良質の人材」を確保できるはずがない。
利巧な人々が検討会に連なったはずなのに、誰も学校教育について気がつかなかったのは、なぜだろうか。