平成21年9月号(通巻76号)より

確かな拠点を築けた
 
高森明勅(たかもりあきのり) 理事/日本文化総合研究所代表

  三度目の正直一…といふ言葉がある。
もともと「勝負ごとや占ひなどで、一、二度目は当てにならないが、三度目は確かである」といふ意味だつた。それが転じて、三度目が重要であることから、「三度目の失敗は許されない」といふことの喩へにも使はれる。
つくる会にとつて、このたびの採択戦はまさに「三度目の正直」。何があつても負けられない戦ひだつた。
 ところが率直に言つて、条件としては最悪だつたと認めざるをえない。
 当会は、残念ながらなほ先年の内紛騒ぎの傷あとが十分に癒え切つたとは、言ひがたいのが実情だ。ピーク時に比べて、会員数は明らかに減つたし、それに伴ひ経済的基盤も弱体化した。だが逆に言へば、現在、当会を支えて下さつてゐる会員は、とりわけ志の高い方々ばかりといふことでもあるのだが。
 また、このところ教科書問題への世間的な関心も低下してゐる。ややもすると、わが国が抱へる多くの難問の中の比較的緊急度の低い一つと錯覚されかねない。
 さらに、安倍元首相退陣後、それまでの保守再興の気運は大きく失速を余儀なくされた。それが教育是正の現場にも直接、暗い影を投げかけつつある。
 そのやうな逆風、逆境の中での採択戦だつた。つくる会がどれだけ屈辱的な惨敗を喫しても仕方がないと、危ぶむ声も聞かれた。
 しかし、私たちは今回の採択戦で、次につながる、しつかりとした結果を出すことができた。
 まづ、これまでで最善、最高の教科書を、ごく限られた制作期間ではあつたが、みごとに完成させることができた。これによつて、歴史教育再建への最強の「武器」を手にし得たのである。
 次に、この教科書を『日本人の歴史教科書』として市販に踏み切り、心ある人々の広範な支持をいただくこともできた。出版不況下の現在、五万部を超える部数を数へた事実は重い。
 そして何より大きな成果は、横浜市教育委員会が白由社版採択の英断を下してくれたことだ。かくて明年四月から、一万三千人の生徒たちが新しくこの教科書で学ぶことになる。数としてはこれまでの二倍以上だ。
 もちろん、当会の目標への道のりはまだまだ遠い。だが悪条件の下でも、私たちはその日標につながる確かな拠点を築くことができた。

 全国の会員、支援者の皆様と手を携へ、勇気をもつて共に次なる一歩を踏み出したいと思ふ。