第22回つくる会シンポジウム
拉致被害者家族から話を聞く対話集会

開催日: 平成14年12月26日
パネリスト: 西尾幹二・田中英道・藤岡信勝
田久保忠衛・八木秀次
ゲスト: 横田滋・早紀江夫妻、蓮池透
佐藤勝巳・中川昭一・平沢勝栄

 平成14年12月26日、東京の大田区民ホール・アプリコで、本会主催の「拉致被害者家族から話を聞く対話集会」が開催されました。暮れも押し詰った慌しい時期で、何人の参加者が見込めるのか、不安でしたが、開催2時間前、すでに数十人が人り口の前に列を作り、開場とともに続々とホールに吸い込まれていく人々の波を見ていると、我々の懸念も杞憂に過ぎないことが分かりました。

 多忙な年の瀬の、しかも平日の夕方開催のシンポに、最終的に約千百人もの参加者を数えたことは、拉致問題への国民の関心の高さが、未だ衰えていないことを示す証拠でありましょう。

 シンポの前に開かれた記者会見では、次回の教科書検定に向けて公民教科書の記述修止を文部科学省に申請し認められたことが報告されました。



 前回の検定では、拉致事件については外交関係や日本国内の一部過激勢力に気を使った文部科学省の意向で、曖昧な記述に止まらざるをえませんでした。しかし、9月17日の日朝首脳会談で北朝鮮が国家として正式に日本人拉致を認めたことを受け、今同は位致を確定的に記述。さらに、9月17日以降の拉致事件に関する推移と新事実を追加。拉致事件に一切触れることの無い他社公民教科書とは一線を画した内容となっています。「新しい公民教科書」が拉致事件をわが国への主権侵害、人権蹂躙とはっきり規定したことは、平和ボケしたと言われる日本人が、わが国を取り巻く厳しい安全保障問題を認識する一歩となるでしょう。

 シンポは拉致問題を巡る運動の歴史的変遷を描くビデオと共に始まりました。ビデオはこれまでの拉致被害者救出集会や街頭での署名活動の様子をまとめたものであるが、そこに写っているのは国民の非情なる無関心の姿であった。「拉致被害者救出署名をお願いします」と叫ぶ家族の方やボランティアの人々。しかし、道行く人はその前を無言で通り過ぎていきます。このような無関心が拉致事件の解決を遅らせ困難にしていったのだと、改めて実感させられました。マスコミも昨年の9月17日までずっとだんまりを決め込んでいたのです。

終始飽きさせない展開
 ビデオの後、西尾幹二名誉会長の司会で登壇者のスピーチに移りました。家族会の蓮池透氏は、拉致箏件は日朝友好の障害だと書いた朝日新聞批判から始まり、いつものごとく政府・外務省を舌鋒鋭く切り捨てました。カミソリのようです。氏が言葉を切るごとに、聴衆はうなずき盛大な拍手をおくりました。

 横田滋・早紀江ごの真摯な語りは、特に「めぐみが帰ってきたら、失蹄した時に用意していた食事を食べさせてあげたい」と語る横田夫人の言葉が心の奥底にずっしりとくる感動を聴衆に与え、会場ではあちこちですすり泣きの声が聞かれました。

 救う会会長の佐藤勝巳氏は、土下座外交を展開してきた日本政府の、テロ政権に対しても援助を続けていればいつかは誠意をもって答えてくれるという甘い判断そのものが、拉致事件を25年間も解決してこなかったと批判。

 極めつけは、平沢勝栄議員。北朝鮮と癒着して甘い汁を吸っている外交官、政治家批判はいまさら新鮮味のあるものではない。しかし、「横田婦人が外務大臣、横田氏が外務次官、蓮池透氏がアジア大洋州局長か日朝担当大使になれば、拉致事件はもっと早く解決するのではないか」と氏が言えば、会場内は大爆笑。盛大な拍手がおくられました。誰しも感じていた、表硯されえなかった横川夫妻の微妙な役割分担を、的確に捉えてジョークにした平沢氏の演説は見事というしかないでしょう。

 田久保忠衛理事は、専門である防衛問題の観点から、拉致問題を取り巻く国際的な文脈を説明。1970年代後半に、旧ソ連が西ドイツ国境に中距離ミサイルを配備した事件を例としてあげる。その折、西ドイツはミサイルを撤去してもらう見返りにソ連に経済援助を提案するどころか、対抗措置として米国から巡航ミサイルを輸入し、国境沿いに配備してソ連に対抗。攻撃能力を等しくし、いつでも開戦を辞さないという態度で兵力削減の交渉に臨みました。それは、戦略的均衡が、結局は平和共存への道を開いた一例です。

 そこで氏は、「拉致事件では、こっちも60人か70人拉致するんですよ。そして交換で釈放しようというのが交渉のABCだと思う」と提言。会場から割れんばかりの拍手と激励の言葉が飛び交いました。必ずしも事件解決のためのベストの方法ではないでしょうが、多くの日本人の共感を呼ぶ表現ではないでしょうか。

 シンポは、その始めから終わりまで涙あり笑いあり、終始聞く者を飽きさせることのない展開で、聴衆に大きな感動をあたえました。

 最後に「つくる会」を代表して西尾名誉会長から「家族会」へ激励の言葉とともに花束を贈呈、横田夫人が笑顔で受け取られました。その笑顔に我々は希望を見出し、逆に家族会に激励されたような気分にもなりました。同じ日本国民として、同じ人間として「希望を捨てずに助け合う」という精神を改めて認識しました。
明るい将来を予感させるアンケート
 ここで、今同のシンポ会場で行ったアンケート結果も合わせて紹介します。シンポ全体の感想として、拉致被害者ご家族の話を生で聞いた感動の大きさを記しているアンケートが多く、「このシンポを機会に日本の役にたてる仕事がしたい」という若い世代の声は日本の将来に対して明るい希望の芦感を感じさせるものです。

 拉致事件解決へ向けて政府・国民は何をすべきか、という問いに対して、回答者の多くは政府による北朝鮮支援の停止、日本からの送金停止をあげています。

 また、日朝国交正常化については極少数の賛成意見を除いて、ほとんどは反対を選択しています。これらは、8人死亡(当時北朝鮮発表)という予想だにしなかった今回の日朝国交正常化交渉における大きな衝撃の、日本国民としての当然の反応でありましょう。数多くのアンケートを回収しましたが、主なな意見を以下に紹介します。

「愛国心と良識的な判断をもちながら、拉致事件の全面解決まで興味を抱き支援し続けること。政府、マスコミに常に厳しい目をもって接し、評価することが国民のなすべきことだと思います。政府は、何よりもまず国民の代表機関であるということを常に忘れないでいただきたいと思います。
また、平壌会談以前でも強い疑いがあり証言もとれていたのだから、教科書に拉致事件をのせても何の問題もなかったはずだと思います。自国の教科書なのだから、自国のこの重大な事件をむしろ全ての教科書がとりあげるべきだったと思います」(高校生・女性・17歳)

「日朝国交正常化には反対。話し合いが出来るような相手ではない。北朝鮮は独裁国で今まで何度も約束を破り、嘘をついてきた。そんな相手と国交正常化交渉をしたところで、日本からお金を引き出そうとするだけだから。北朝鮮を調子づかせるだけだと思う。
私の周りの学生は、小・中・高で日本のまちがった歴史認識を教えられ、『日本はダメな国』と思い杜会に全く興味を持っていない。拉致事件をあえて教科書にのせないことは、今までやってきた間違った教育の延長線上である」(大学生・女性・19歳)

「教科書で拉致事件を取り上げることは、大いに結構だと思います.事実はどんどん取り上げていくべきでしょう。子供の頃の教育は重要だと思います。少なくとも自虐的な教育はしない方がいいのではないかと思います。左翼教育を受けた私自身、こう思うに至りました。
それに、政府は今までみたいな土下座外交ではなく、強い態度で北朝鮮に接して欲しいです。マスコミは情報操作をしないで、もっと、一般の国民の率直な声を取り上げて欲しい」(女性・31歳)

「拉致事件を教科書に取り上げることには当然賛成である。、不幸な事件ではあるが、国家・人権・平和について考えを深めるきっかけにもなると思う。
政府は拉致被害者全員救出のためにあらゆる手段・カードドを使うべきだ。場合によっては経済封鎖・軍事力行使をするべき。国民の安全を拉致や核で脅すような国家と国交はもちろん支援すら論外だ。テロ国家を支援すれぱ、日本もテロ支援国家となってしまう」(男性・26歳)
 いずれの意見も、拉致事件の被害者家族の話を生で聞いた後の反応としては、矯激とも言えないでしょう。未成年の凶悪犯罪発率の急上昇、学級崩壊。日本の将来を暗く予感させる昨今の若者を取り巻くニュースが、巷に氾濫しています。しかし、上記回答の最初の2つは、現役女子学生によるものです。暗闇の中に、1つの希望の光を見出したような気がします。

 それゆえ、日朝国交正常化には慎重な態度で臨むべきだ、と多くの識者は話ります。国交正常化、人道的援助がまず先にありき、という日朝交渉ではなく、どうすれば両国がお互いに尊厳を持った良好な関係を未来に渡って築けるか、という前提から出発しなければならないでしょう。

 国交正常化をうんぬんする前に、まず、日本は「何を守り」、「何から守るのか」という基本方針を確立すべきではないでしょうか。そのためには日本人が国家意識を持ち、自己の歴史認識を臆することなく主張できるようになることです。我々「新しい歴史教科書をつくる会」が目指していることも、まさにこの点に帰結します。「拉致被害者家族から話を聞く対話集会」に参加することで、確固とした国家意識をもち、日本人として誇りをもてる歴史認識を確立すべきだ、と感じていただけたなら、我々も目標に一歩近づいたことになります。

 平成15年2月現在、拉致事件解決に向けた交渉は完全に停滞しています。それどころか、北朝鮮がミサイル実験を開始するなど、半島情勢はさらに危険度を増してきております。拉致シンポで語られた「日本人として当然の主張」をより声高に叫び、実行にうつしていかなければならないでしょう。