第27回つくる会シンポジウム
国民の油断 ジェンダーフリー・領土・教科書
平成17年1月23日(日)、銀座ブロッサム
登壇者
平松茂雄氏 工藤美代子氏 中西輝政氏 西尾幹二氏 八木秀次氏
 

平松 茂雄(ひらまつ しげお)
昭和11(1936)年、静岡県生まれ。慶應義塾大学文学部(史学科)卒業。同大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程修了。法学博士。防衛庁防衛研修所(現防衛研究所)勤務を経て、杏林大学社会科学部教授。現在、同大学社会科学部・総合政策学部教授。専門は軍隊・国防を中心とした現代中国論。著書に『中国と朝鮮戦争』、『ケ小平の軍事改革』(正・続)、『甦る中国海軍』、『中国の海洋戦略』(正・続)、『中国の核戦力』、『現代中国の軍事指導者』(頸草書房)、『軍事巨大化する中国の脅威』(時事通信社)、『中国の軍事力(文春新書)』(文藝春秋)など。

工藤 美代子(くどう みよこ)
昭和25(1950)年、東京都生まれ。大妻女子高校を経て、チェコスロバキアの大学に留学、カナダのコロンビア・カレッジを卒業。『工藤写真館の昭和』(朝日新聞社)で講談社ノンフィクション賞受賞。ノンフィクション作家。「新しい歴史教科書をつくる会」理事。著書に『野の人 会津八一』(新潮社)、『黄昏の詩人 堀口大学とその父のこと』(マガジンハウス)、『ラフカディオ・ハーンの生涯』『哀しい目つきの漂流者』(集英社)、『悲劇の外交官ハーバード・ノーマンの生涯』(岩波書店)、『海燃ゆ 山本五十六の生涯」(講談社)など。

中西 輝政なかにし てるまさ
昭和22(1947)年、大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。同大学大学院修士課程国際政治学専攻終了。英国ケンブリッジ大学歴史学部大学院国際関係史専攻終了。米国スタンフォード大学客員研究員などを経て、現在、京都大学教授。専攻は国際政治学、国際関係史、文明史。「新しい歴史教科書をつくる会」理事。著書に、『国民の文明史』(扶桑社)、『アジアはどう変わるか』(日本経済新聞)、『なぜ国家は衰亡するのか』(PHP新書)、『日本の「敵」』『日本の「死」』(文藝春秋)、『いま本当の危機が始まった』(集英社)、『帝国としての中国』(東洋経済新報社)、『大英帝国衰亡史』(PHP研究所)など。

西尾 幹二(にしお かんじ)
昭和10(1935)年、東京都生れ。東京大学文学部独文科卒業。同大学大学院文学修士。文学博士。電気通信大学名誉教授。評論家。「新しい歴史教科書をつくる会」名誉会長。著書に『国民の歴史』『西尾幹二の思想と行動』1〜3(扶桑社)、『全体主義の呪い』『人生の価値について』『わたしの昭和史』(新潮選書)、『ニーチェ』第一部、第二部(中央公論新社・ちくま学芸文庫)、『国を潰してなるものか』『沈黙する歴史』(徳間書店)『異なる悲劇 日本とドイツ』(文春文庫)、『ヨーロッパ像の転換』(新潮選書)、『日本の根本問題』(新潮社)、『歴史を裁く愚かさ』(PHP研究所)、『壁の向こうの狂気』(恒文社21)
など。

八木 秀次
(やぎ ひでつぐ)
昭和37(1962)年、広島県生まれ。早稲田大学法学部卒業。同大学大学院政治学研究科博士課程中退。現在、高崎経済大学助教授。専攻は憲法学・思想史。「新しい歴史教科書をつくる会」会長。著書に『国民の思想』(扶桑社)、『論戦布告』(徳間書店)、『反「人権」宣言』(ちくま新書)、『誰が教育を滅ぼしたか』『国を売る人ひと(共著)』『教育は何を目指すべきか(共著)『「教育改革」は改革か(共著)』(PHP研究所)、『明治憲法の思想』(PHP新書)、『精選「尋常小学校修身書」(監修)』(小学館文庫)、『「女性天皇容認論」を排す』(清流出版)など。
勝負の年の初シンポは大入り満員
地下茎でつながる三つのテーマ
満席の会場にあふれる熱気
 去る一月二十三日、東京・銀座ブロッサムにおいて、つくる会第二十七回シンポジウム「国民の油断・ジェンダーフリー・領土・教科書」が開催された。

  今年は、戦後六十年、日露戦争勝利百年、そして、何と言っても四年ぶりのリベンジをかけた「教科書採択」という勝負の年であり、今回はその年最初のシンポジウムである。九百名定員のホールも満席となり、雪もちらつく屋外とは裏腹に会場は熱気に包まれた。

  パネリストはつくる会理事を中心とした五氏。杏林大学教授・平松茂雄氏、ノンフィクション作家・工藤美代子氏、京都大学教授・中西輝政氏、評論家・西尾幹二氏、高崎経済大学助教授・八木秀次氏という錚々たるメンバーだ。
衝撃の映像が告発する亡国の現実
 第一部は、各パネリストが映像を織り交ぜながらそれぞれ発議した。

  まず初めに平松氏は、近年の中国の海洋進出・侵犯の歴史と実態を写真や地図を交えながら解説。また、日中で問題となっている東シナ海の状況を説明した上で、「中国は施設建設などよく研究して行動している。中国が日本の南方海域をくまなく調査しているのは、台湾問題でアメリカの空母を阻止するため。領海侵犯よりもその方が問題」と指摘。

  続いて中西氏は、中国について「国境観念の乏しい国であることを、戦後の日本人だけがわかっていない。審陽日本領事館侵入など、欧米とアジアに対するダブルスタンダード」と指摘した上で、「中国の近代の歴史の歩みをよく見るべき。危険な動きの東アジア共同体、内ではジ ェンダーフリーと、なぜ同時に起こってきたかを考えるべき」と述べ、しかし「外からの脅威、内からの変化で日本人の意識が目覚めようとしている。日本にとって希望の時代であり、大きく楽観的に目の前の深刻さに対応すべき」と、悲観する必要はないことを付け加えた。

  西尾氏は「ジェンダーフリーと男女共同参画は同じ。正義を名乗り、人をさらし者にする、人を人として見ないという点で従軍慰安婦問題とも同じ」と指摘し、「過去は歴史、今は公民であり、内外の問題の根は同じだから、本日も正反対と思えるテーマにした」と趣旨を説明。その上で、現在の過度で過激な性教育の実態を写真を交えて解説し、「現在行われている過剰な性教育は羞恥心をなくそうとしている」と批判。「羞恥心は道徳ではなく、文化共同体が前提。歴史や伝統が培ってきた。道徳はつくれるが羞恥心は演技できず一番深い。だから壊してはいけない」と述べ、それを壊すことには政治的意図があると指摘。

  八木氏は、まず「教科書を攻撃し、ジ ェンダーフリーの旗を振る人は同じ。我々にとっての敵は同じ」と提起し「男女共同参画は国連女子差別撤廃条約が元。性別による区別を差別との考えから、社会性差だけでなく生物学的な性差も否定している。これらは伝統文化、制度、慣行も役割論も否定し、社会の仕組みを壊している」と指摘。また「性の解放から過激な性教育を推し進めている。これらを公権力で行っていることが問題」と批判した。

  続いて、千葉市の男女共同参画パンフレットを紹介しながら「性差がないカタツムリが象徴的に描かれ、そのような人間をつくろうとしている」と解説し、さらに、性別役割を否定している自治体のテキスト、男女同色のトイレ表示の事例、小学生の過激な性教育テキストなどジェンダーフリーの歪んだ構造の映像を紹介した。

  最後に、工藤美代子氏は「長年の海外居住経験から言っても、ジェンダーフリーなどという英語は聞いたことがない」と述べ、「当時、カナダでは主婦は低く見られていたが、何かをしなければ、何者かでなければいけないというのは自分にとって居心地が悪い。現在の日本のジェンダーフリーは当時のカナダと同じ状況」との見方を示した。また、「男女の差別はなくすべきだが、区別は厳然としてあり、違いはなくならない。おかしいことははっきりおかしいと言える社会でありたい」と訴えた。
地下茎でつながる三テーマ
 休憩をはさんで、第二部は八木氏をコーディネーターに、パネリストそれぞれが追加発言の後、全体討論を行った。

 追加発言では、初めに西尾氏が「民族の生命力が下がっている時は、内外に問題が起こりやすい」と指摘し、「人間を中性的に扱うのは非人間的。ジェンダーフリーは男らしさ女らしさを破壊し、人間を破壊する」と持論を展開した。

  続いて、平松氏は「九六年の台湾海峡緊張時にアメリカは空母を派遣したが、中国は屈辱を忘れていない」と指摘。また「中国が台湾を手にすると太平洋進出が容易になり、朝鮮半島や尖閣諸島、海洋資源が中国の支配下になる。日本はアメリカ、台湾と南シナ海、台湾東部海域を守る必要がある」と述べ、「日本のシーレーンは台湾とフィリピン間のバシー海峡を通っているが、知らない人が多い。台湾は日本の生命線だ」と訴えた。

  中西氏は「中国との靖国や原潜の問題は審陽事件から続いており、教科書問題もすべてリンクしている」と現状を分析し、「中国の戦略外交のパターンを日本人は心得るべき」と訴えた。そのパターンを挙げ、それに対抗するために、原則を明示して一歩も離れない方針を常に確認し、国際社会に発信することで味方に付けることが必要との考えを示し、北朝鮮の経済制裁への報復を覚悟することなど「今年は日本人がギリギリを考えなければならない」と訴えた。

  工藤氏は「靖国参拝や教科書への干渉などは精神的な領海侵犯。マスコミに意見はあっていいが、どこの国の新聞、テレビなのか」と痛烈に批判。また「学校と養老院は密室。弱者を人質に取られており、救わなければならない。『新しい歴史教科書』が今こそ必要」と訴えた。

  八木氏は「ジェンダーフリーは社会主義の初期からあり、ロシア革命でレーニンが実践したが、スターリンは家庭と男女らしさの重視に方針転換。その後、ジ ョン・マネーの研究を土台に上野千鶴子氏らが継承した」とこれまでの経緯を説明。また「平成十一年、男女共同参画社会基本法が全会一致で成立したが、保守派は理解していなかった。まさに『国民の油断』ではないか」と剔抉。

  さらに「過激な性教育は、一部の人の特殊なイデオロギーが教科書に反映されるという点で教科書問題と同じ。今日の三つのテーマは地下茎で全てつながっている」と指摘した。
10%採択で地理の教科書も
 自由討論の最初は「中国には国家の意思があり、日本には国家の意思がない」という点について、平松・中西両氏から発言があった。

 平松氏は「日本人は一般的に国家、主権、主権の及ぶ範囲、国家の利益、領土・領海について教えられていない」と現状を指摘し、これらのことをきちんと教えるべきと訴えた。また、「地理の軽視」を指摘した上で、『新しい地理教科書』を提案した。

  地理教科書の可能性について、西尾氏は「地理だけでなく、問題のある国語、英語、家庭科などもつくりたいが、今年の採択で一〇%取らないと難しい」と述べ、そのためにも勝たなければならないと訴えた。

  中西氏は「国家戦略を考える上で重要なことは、迫ってくるものの実体を見極めること」「中国は、精神的バックボーンと自信を持つ日本を、昔から手強い相手だと思っている」と指摘し、だから、教科書、靖国などあの手この手で揺さぶりをかけていると背景を解説。また、NHKと朝日の偏向を指摘しつつ、これらに外国勢力の力が及んでいるのかどうか、日本の左派メディアとアジアの共産主義、過去のNYタイムズとクレムリンの関係を例示しながら可能性を示唆した。

  続いて、西尾氏から出された「与那国島上の台湾との防空識別線の経緯」について、平松氏は「日本の領空でありながら自衛隊機は近づけない」と領空が失われている現実を指摘。そして、「戦後、米軍が東経一二三度線上に引き、沖縄返還時に変えるべきだったが放置していた」と経緯を説明し、「過去に指摘したが、当時の防衛庁長官でさえ『心配しなくてもいい』と発言していた。領土や国益がわかっていないいい例だ」とこれまでの状況を批判した。

  最後に、コーディネーターの八木氏が「慰安婦問題は論壇ではすでに決着がついているのに、蒸し返されている。その元になった河野談話、近隣諸国条項の撤回を求めていく必要がある。いよいよ今年は採択決戦の年、皆さんのますますのご支援とご協力をお願いしたい」と述べ締めくくった。
会場からは驚きの声
 深刻なテーマにもかかわらず、会場はパネリストのユーモアあふれる語り口に笑いに包まれることも多々あり、パネリストと参加者の一体感が感じられた。

  参加者のアンケートには「目から鱗の連続」「ジェンダーフリー、学校教育の現状に驚き、愕然とした」「一見全く違う三つのテーマが同一の思想に根ざしていることがわかり、問題がトータルに理解できた」「意見には賛成だが、もう少し柔らかい表現をした方がより多くの理解を得られるのでは?」「教科書改善運動の内容の突っ込んだ話をしてほしかった」など様々な意見が数多く寄せられた。

  また、「この運動を会場以外の人、若い人にもっと広げることが重要」「聞いたことをどう伝え、自分に何ができるのかを各人が考えなければならない」など、参加者が主体的に行動していく必要性を訴えた意見も少なくなかった。
『史』平成17年3月号通巻49号より
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2時間×2本
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