第4回 平成16年4月8日(木) 講 師
  「江戸時代」 芳賀徹
     
俳句を通して江戸時代の豊かさを実感
暗黒史観のウソ
 去る5月13日、東京・牛込 笥区民ホールにおいて、東大名誉教授で本会理事の芳賀徹先生を講師として、「江戸時代」をテーマに第四回「歴史教科書10の争点」を開催した。

 穏やかな口調で話される中にも、しなやかで洒脱な一面が垣間見え、三百人ほどの参加者は思わず知らず心豊かな感じを覚え、俳句を通して見た豊かで平和な「徳川日本」を追体験した。

  これまでの江戸時代といえば「封建制でがんじがらめになっていて、大名はふんぞり返って農民から搾取し、百姓一揆が起こるとすぐぶっ潰し、名も無き人民は大地をはいつくばって、ほとんど空を見上げることもなく一生を暮らしたという暗黒時代だった」というイメージであったが、芳賀先生は「それは一時期の間違った考えで、今はまったく通じません。通じているのは学会くらいです」といって笑わせつつ、「よくまぁ平気でこんな嘘っぱちを言って原稿料を稼いだり、大学教師になったりしていたものだと本当に驚く」と、これまでの暗黒史観をリードしてきた丸山真男や大塚久男などの歴史観を批判しつつ、二百六十年間に戦争が一回もなかったことを指摘して「徳川の遺産は完全平和と明治の新体制」と喝破。そして、話はいよいよ核心へ。

豊かな徳川日本は俳句に結実
 徳川日本を見るのにもっとも適しているのは、近松や西鶴の小説ではなく、シャボン玉のように周りの風景をすべて映し出す俳句だとして、徳川初期の松尾芭蕉、中期の與謝蕪村、末期の小林一茶の三人のそれぞれの俳句を紹介しつつ、江戸時代の特徴を解説。

 例えば、芭蕉の「阿蘭陀も花に来にけり馬に鞍」の背景を日本とオランダとの関係を踏まえ「ようやく本物になったらしい平和に対する共感、喜び、それを江戸の市民たち、日本の国民に代わって芭蕉が句に読んだ」と説明されると、妙に府に落ちてくるから不思議である。

 そして、徳川の文化の中核は、蕪村の「花を踏し草履も見えて朝寝哉」「にほいある衣も畳まず春の暮」「埋火やつゐには煮ゆる鍋の物」といった世界にあったと解説しつつ、「『にほいする』ではなく『にほいある』です。『にほいする』じゃダメ」とまた会場を笑わせる。名調子に聴き入りつつ、先生は心底、徳川日本を好きなのだと実感した次第だ。
(「史」平成16年7月[通巻45号]より)
【来場者アンケートより】
◆とても面白くて、笑ってお腹が痛くなりました。江戸時代は中・高と歴史を学んだ中でとても退屈な印象がありましたが、暗黒の時代だったのではなく、太平の時代で学ぶべきことが多くあることを教えてもらって、とても良かったです。(20代・女性)
◆ 芳賀先生のユーモア溢れるお話に魅了された。現代の我々には立派なモデルがある、温故知新は江戸時代を勉強すること。江戸時代は身分制度(士農工商)と言っても自由度大で、情報も早い。力のある者は出自に拘わらず活躍できる時代、等を俳句を参考に理解できた。(50代・男性)
◆時代背景、歴史を踏まえ俳句を読むのは大変面白かったです。私が学生時代に教えて頂いたものとは違い、頭に残ります。(女性)