立春を過ぎたばかりの2月8日、第9回「歴史・文化塾」はいつもの星陵会館にて、前半は伊藤哲夫・日本政策研究センター所長により「作られた『戦後日本』像」と題して行われ、次のように語られました。
戦後、GHQによって国家改造され意識が根本的に入れ替えられた結果、日本人は、実際に戦後の人たちが持っていた当時の戦後日本像とは明らかに違う像を抱かされた。そして押し付けられたのはGHQが作った日本国憲法だけではなく、憲法が正当に作られたという物語も押し付けられたのである。当時は言論統制があり、事実を知る日本の関係者も口外してはならなかったため、占領軍が本国へ報告したレポートの「日本の憲法はこんなにも正しい」という翻訳内容が一挙に拡がり、それは今日の教科書にも大学の憲法の教科書にも全てに徹底している。
また、ポツダム宣言は無条件降伏ではなく、「我らの条件、左の如し」として有条件降伏であることを謳っており、日本政府が日本国軍隊の無条件降伏を宣言したということであった。しかし、占領軍はその後、日本国民がおとなしく従っていることをいいことに、9月6日に新しい通達でポツダム宣言の解釈を変更し「無条件降伏」とした。
講座ではまた、重光葵、吉田茂など指導者たちの歌や書簡、河盛好蔵や川路柳虹などの文章を紹介しつつ、当時の人々が戦後をどのように受け止めていたのかを紹介、作られた「戦後日本像」から脱却することが喫緊の課題と熱く語られました。
3月15日、今期最後の第10回の講座の前半は、藤岡信勝・東大教授(当会副会長)による「日本の自立と歴史教科書問題」と題して行われました。藤岡先生は1995年の自由主義史観研究会設立以来、小・中・高校の先生方と教室からの授業づくりを進めてこられましたが、その経験から、日本の歴史を大きくつかむためには、指導要領の枠組みに捉われない「わが国の歩みの大きな物語」を生徒たちに提示することが重要であると述べられました。その上で、実際にある先生が教室で行った授業に基づいて、今回は次の3つのテーマについて模擬授業形式で行われました。
1・ご先祖様の名前をどのくらい遡って書くことができるか。
⇒ご年配の方でも3世代前の名前はわからない方が多く、日頃あまり自覚していないことだけに驚きの声が漏れました。
2・仏教を国の宗教とするかどうかを蘇我氏対物部氏の意見をシミュレーションすることにより考える。
⇒これについては、聖徳太子がどのような解決をしたかという仏教伝来の歴史を振り返ることができました。
3・武士道の代表的書物とされている『葉隠』を紹介、本当の忠義とは主君に対しても諌言を厭わないことだった。
⇒今まで「武士道」をイメージのみで捉えていたということの認識と歴史の奥深さについて考えさせられました。
参加者は先生の質問に挙手し答えるという子供にかえったような楽しい体験とともに、歴史の授業も教え方いかんにより、自分たちにつながる先祖の歴史に愛情を持って学ぶことができるということを実感した講座でした。
田中会長の第9回の講座は「西洋の近代を席捲した『ジャポニスム』」と題して行われました。
江戸時代は近代化が始まった時代であり、江戸時代後期の文化ほど、世界に直接影響を与えた時代はない。それは浮世絵という版画芸術がもたらした成果である。江戸時代は町人文化と言われ、本歌取りという復興運動はあるが、信仰は抜きにして美的なものだけを取ろうとする余り、風俗化が始まる。そこに西鶴、近松がいて町人文化としての形が出来てきた。そして、1860年頃からヨーロッパに流入した浮世絵は、多くの芸術愛好家たちの人気の的になり、それまで暗いタッチで描いていたセザンヌやゴッホも、浮世絵の単純な線による明るい色彩の影響を受けて、彼らの画風は一挙に明るくなった。北斎、広重の景色の面白さには、キリスト教とも神話とも異なる自立した風景があり、浮世絵表現には宗教も物語も難しい図像もなく、まさに絵画そのものがあった。それが西洋にとって「近代」の現れと捉えられた。
田中会長の第10回の講座は「現代日本の問題」と題して行われました。ハンチントンの『文明の衝突』で、日本はユーラシアの中でヒンドゥー文明とも儒教文明とも違う日本文明として、8大文明の1つと位置づけられている。文明の衝突の中で、日本文明が佇立するとすればどのように対処していくのか。この問題は明治以降の芸術においても同じで、美術においては西洋から「遠近法」「陰影法」などが人間の身体を表現する写実法とともに流入してきた時、江戸時代の北斎や写楽はそれを取り入れつつも、それ以上の個人像、空間を表現することができた。日本は共同体意識の中で個性がないと言われるが、西洋の遠近法を取り入れ、中国風の山水画を学びながら、同時に日本的なものを作り、影響を乗り越えていく。そこに日本人の創造性がある。
第10回の講座終了後、田中会長より、今期8回以上参加された方に皆勤修了証・精勤修了証が授与されました。代表で受け取られた方はじめ、皆さん予想外のことだっただけに照れながらも嬉しそうなご様子が伺え、事務局としても嬉しいときを共有することができました。(『史』平成15年5月号(通巻38号)より) |