Vol.04 田久保忠衛氏
Vol.02 高森明勅氏
遠藤 浩一(えんどう こういち)
新しい歴史教科書をつくる会 理事

昭和33年(1958年)石川県金沢市生まれ。駒澤大学法学部卒業。現在、情報工学センター代表取締役、拓殖大学日本文化研究所客員教授。専攻は政治学、政党論、選挙制度論、日本政治史。
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Vol.03 選挙と戦略
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 間もなく総選挙の投票日だが、今回、どうにも不思議でならないことがある。それは、自由党を吸収した民主党が(実態は民主党が自由党に吸収されたのだといふ説も ある)、あたかも自民党に対抗しうる二大政党の一翼として扱はれ、選挙後には与野党勢力が伯仲するかのやうな予測や論説が出まはつたことである。

 ある政治評論家は週刊誌で、自民党215議席に対して、民主党は197議席にまで肉薄すると予測してみせた。この見通しが正しいかどうかは10日未明にははつきりするので、ここではあまり深入りはしないが、一つだけ指摘しておきたいのは、この評論家氏が予測を組み立てるにあたつてベースにしたのは、前回総選挙の各党・候補者の得票といふ点だ。いくらなんでも、これは無茶である。

 前回の第42回総選挙(平成12年)といへば、不人気の森内閣のもとで行はれた選挙 で、現在の小泉内閣とは環境が全く違ふ。直近の国政選挙は小泉政権発足直後に行はれた平成13年の第19回参議院議員選挙であり、このときの得票は選挙区・比例区とも、 民主党と自由党の得票を合計しても自民党に遠く及ばなかつた(比例区=自民38.56% 対民主24.15%、選挙区自民41.04%対民主24.07%)。

 小泉人気に陰りが出て来たので、現在なほこれほどの与野党格差があるとは思はれないが、さりとて、森内閣時代の民意が現在も継続してゐるとは到底考へられない。案の定、各社の予測報道を見ると、「与党、安定多数の勢い」(讀賣、11月3日)、「自民、過半数うかがう」(朝日、同日)と、自民優勢を伝へてゐる。

 しかし、これが曲者なのである。安倍晋三幹事長が「世論調査結果とは逆に振れる」 と引き締めに躍起になつてゐるやうに、ここ数回の国政選挙では、投票日一週間前の 調査と実際の選挙結果は、いささか異なつたものになつてゐる。いづれも事前に「自民優勢」と伝へられるのだが、蓋を開けてみると自民党は苦戦し、民主党が善戦してゐるのだ。新聞社の予測を見て、民意といふものは、自ら軌道修正するのである。
 
  通常小選挙区選挙では、予測報道のアナウンス効果は「勝ち馬指向」に働くとされるが、小選挙区制導入後のわが国選挙においては、逆に影響する傾向がある。ただしこれは、一週間前まで自民党に入れるつもりだつた有権者が、投票日になつて民主党に乗り換へたといふことでは必ずしもなく、自民党に入れるつもりだつた人は投票日当日安心して棄権し、反対に棄権するつもりだつた人が自民党にお灸を据ゑるために投票所に足を運んだといふことだらう。これが「逆アナウンス効果」の実態である


自民党は、選挙前からこれを恐れてゐた。自民党の選対事務局は今年に入つてから 三百選挙区及び比例区について独自の選挙情勢分析をし、現有二百四十六議席を維持するのは困難との結論に達した。そして、その結果を意図的にマスコミに流した形跡 がある。メディアはこれに飛びつき、「自民党必ずしも有利ならず」といふ報道を垂 れ流し、冒頭記したやうな「与野党伯仲」の空気が蔓延して、結果として自民党の各選挙陣営は引き締まつた。その結果が今回の世論調査にあらはれたと言へる。

 さて、10日までに、民意はどう振れるだらうか。これまでのやうに「逆アナウンス効果」が出るのか、それとも「勝ち馬指向」に働くのか。筆者は自分なりの見通しを 持つてゐるが、これ以上書くと選挙妨害になるおそれがあるので、ここでは明らかにしない。ただ、小泉首相が「予想は当たるときもあれば、外れるときもある」とコメントしたのを聞いて、なるほどさもありなんと思つた。

 一つだけ断言できるのは、今回の総選挙(そして来年の参院選)は、きはめて重要な意味を持つといふことである。来夏の参議院選挙後は、首相が解散権を行使しない 限り、三年間大きな選挙はない。つまり、首相はかなり大胆な政策運営ができるといふことである。憲法改正をはじめとする国家の基本課題にまで手を付けるチャンスがやつてくるのだ。このとき、政権を担当する政党と首相を選ぶのが、この選挙なのである。

  予測報道に惑はされず、自らの意思で一票を投じなければならないと痛感してゐる。

平成15年11月6日

〈追記〉
 結果は、10日朝の段階で自民237、民主177、公明34、共産9、社民6、保守新4、諸派・無所属13であつた(その後追加公認や保守新党の合流により自民党は244に、また田中真紀子前外相らの合流で主党系の院内会派も若干増えると思はれる)。

 上記の文章では敢へて曖昧にしたが、筆者自身は選挙前に以下のやうに見てゐた。公明微減、共産減、社民と保守新は壊滅的減少。これに無所属他を加へると60〜70 議席になるが、これを差し引いた410〜420議席を自民党と民主党が分け合ふこととなる。「小泉人気」と「民由合併効果」といふ双方のプラス要素を比較考量すると、自 民250〜260議席、民主160〜170議席になるのではないか──と。

 自民党に対して甘く民主党には厳しい見方であり、また実際には公明党は増やし、共産党は予想以上に減らした。見通しが外れたことは否めない(テレビ各局の出口調 査より確度は高かつたが)。

 それにしても、「小泉人気」と実際の自民党への投票行動との間にこれほどの乖離があつたことの意味は小さくない。人気を梃子に勝利しようと思つて解散・総選挙に 打つて出たのに、解散時の議席さへ維持できなかつたのだから、小泉自民党は敗北したといふべきである。

 そこには、五つの逆効果があつたと思ふ。すなはち、(1)解散時期の設定(来夏の衆 参同時選挙にしなかつたこと)、(2)自民党総裁選(自民党が小泉流構造改革一色では ないことを印象づけた)、(3)「改革」の連呼(これにより自民党本来の土俵から民主党の土俵に飛び移つてしまつた)、(4)公明党との選挙協力(得る票以上に失ふ票があ つた)、(5)マスコミ各社予測報道のアナウンス効果(上記参照)──である。

 五番目の予測報道のアナウンス効果以外は、全て首相自身の選択が裏目に出、逆効果になつたといふべきである。特に公明党・創価学会との関係は、自民党にとつて議 席を維持する「生命維持装置」などではなく、鎮痛剤でしかない。痛みを感じないまま、このままずるずる関係を続け、公明党の言ひなりに政策が決定されるやうなこと になるならば、自民党にとつて、取り返しのつかない結果を招来するだらう。公明・ 創価学会票を得たところで、それ以上に保守票がとめどもなく流出するのだ(東京一 区の与謝野馨、同二区の深谷隆司氏の落選は、それを雄弁に物語つてゐる)。だからこそ、衆参同時選挙で公明党との関係を見直すべきだつたのである。

 逆に民主党は、勢力としては、一応二大政党の一翼としての基盤を確保したと言へる。今後、国防・安全保障政策を整備し、教科書問題へのこれまでの対応を反省する など、国家観の歪みを修正して健全な政策を打ち出すやうになれば、保守票は雪崩を打つやうに流れ込み、政権獲得も現実味を帯びてくる。そのためには、多数派になつ た党内保守・中道系議員の面々は、左派の時代遅れの主張を封じ込めなければならない。左右馴れ合ひではなく、党内対立を恐れず、左翼勢力を一掃することが、政権獲 得への関門である。

 つまり、自民党も民主党もともに保守票を獲得するための大胆な党改革が迫られてゐるのであり、先にそれができたはうが政権政党としての資格を得るといふことであ る。

平成15年11月11日