Vol.10 藤岡信勝氏
Vol.12 市田ひろみ氏
 
工藤美代子(くどう みよこ)
ノンフィクション作家

昭和25年(1950年)、東京生れ。バンクーバー、コロンビア・カレッジ卒業。近著に『海燃ゆ−山本五十六の生涯』(講談社)などがある。
著作のご案内
祖父、実父、養父とも戦死または負傷した戊辰の役から太平洋戦争までの百年を、長い戦後として生きた山本五十六。その宿命の生涯を死生観を含めて浮かび上がらせる。
海燃ゆ−山本五十六の生涯
工藤美代子 著
講談社 / 平成16年6月発刊
価格: ¥2,415(税込)
敗戦直後、明仁皇太子がアメリカ人家庭教師ヴァイニング夫人によって付けられたニックネームは「ジミー」だった。若きプリンスの愛と苦悩の戦後秘話。天皇家から贈られたアルバムと手紙も初公開するノンフィクション。
ジミーと呼ばれた日 若き日の明仁天皇
工藤美代子 著
恒文社21 /平成14年4月発刊
価格: ¥1,995(税込)
マッカーサー伝説
工藤美代子 著
恒文社21 /平成13年11月発刊
価格: ¥1,680(税込)
香淳皇后
―昭和天皇と歩んだ二十世紀

工藤美代子 著
中央公論新社 /平成12年10月発刊
価格: ¥1,943(税込)
神々の国―ラフカディオ・
ハーンの生涯 日本編

集英社 /平成15年4月発刊
価格: ¥2,730(税込)
今すぐ >

Vol.11 幼い日の思い出
大きな文字で読む
 教育問題について考えるとき、いつも自分の幼かった日々が思い出される。

 私は昭和25年生まれだが、早生まれなので同級生は24年生まれの人が多かった。
戦後のベビー・ブームに生まれたので、いわゆる団塊の世代に属する。とにかく子供の数が多かったので、1クラスに60人近くの児童がいてそれが8クラスほどあった。

 先日、テレビの仕事で、自分の母校である小学校を訪ねたら、今は子供の数が少なくて、学年ごとに1クラスしかなく、30人弱が在籍するだけだという。まさに隔世の感があった。

 昭和30年代は、まだ人々が戦争の残影を引き摺っている時代でもあった。教育の現場も混乱していた。天皇制への露骨な批判を声高に叫ぶ教師もいれば、自衛隊への嫌悪を授業中に繰り返す教師もいた。

 そんな中で、私は教師の情緒が安定していないことにある恐怖を覚えていた。子供だからこそ、自分を取り巻く環境に非常に敏感に反応してしまったのだ。

 家庭における両親のいうことには、つねに一貫性があった。たとえ、それが他の家とは違った考えであったとしても、我が家の仕来りがあり、祝日には日の丸の旗を出したし、新年には神社にお参りに行った。他人を傷つける言動は慎むようにと厳しくいわれた。

 それは理屈ではなくて、身体で憶えるものだった。

 ある日、私は学校で、いつも問題児と見られていた男子児童に、理由もなく暴力をふるわれた。泣きながら家に帰ると母になにがあったのかを尋ねられた。いきなり休み時間に後ろから殴られたが、教師はただ傍観するだけだったことを説明すると、母は私の手を引いて小学校に突進していった。

 担任の教師はまだ職員室にいた。そのとき母が教師にいった言葉は今も忘れられない。

「学校というところは、いろいろな家庭のお子さんが来ます。きちんと自宅で子供の躾をするのがまず第一です。しかしそれが難しい場合は学校の先生が本気で子供の躾に取り組んでくれなければ困ります。そうすればかなりの確率で子供は、ことの善悪をわきまえるはずです。その仕事は先生、あなたの責任ですよ」。

 母の剣幕に驚いて、教師は口をパクパクさせるだけだった。

 今頃になって、私はあの日の母の姿を思い出す。いったい私たちは現在の教育現場にどれだけの期待をもてるのだろうか。あるいは信頼がもてるのだろうか。教育の基点となる教科書はどうやって作られ、使われているのだろうか。それらの点について、私はこれから本気で考えていきたいと思っている。
平成16年7月7日