勝岡寛次(かつおか かんじ)
新しい歴史教科書をつくる会 理事

昭和32年(1957年)、広島県生まれ。早稲田大学第一文学部卒、早稲田大学大学院博士課程修了。現在明星大学戦後教育史研究センター専任研究員、明星大学非常勤講師。
   
   
 
   
   
 
Vol.17 “箍”の外れた日本
  マンションの耐震強度偽装問題で、日本中が揺れてゐる。
 
  今から10年ほど前、韓国の漢江に架かる聖水大橋の橋梁が、“手抜き工事”のために崩落して大惨事になる事件があつたが、そのとき韓国人が口にした言葉が忘れられない。「日本統治時代に日本人が架けた橋は頑丈で落ちないのに、何故韓国人が架けた橋だけが落ちるのか、日本では絶対こんなことは起こらない」と。韓国では、期せずして「日本に学べ」の声まで上がつたのださうだ。

  日本人にとつては自尊心をくすぐられる話だが、どうやらそれも過去の話になつたやうだ。最近の日本は、韓国或いは中国並みと言つていいほど、国民の間で急速なモラルの低下が進んでゐる。ことは不動産業界だけの話ではない。政界・財界・マスコミ・教育界、どこをとつても今の日本には、昔の日本人にはあつた“凛とした”ものが感じられない。

  高校生の女の子が、母親に毒を盛つた。それだけでなく、毒を盛られた母親が苦しみ、衰弱していく様子を、ブログの日記に嬉々として書き込んでゐた。犯人の女の子は「母親は好きでも嫌いでもない」と逮捕後に供述したさうだが、親に対して平気でこんなことをするとは、教育が狂つてゐるとしか考へられない。

  人間として一番大切なこと、それは「規範」と言つてもいいのだが、大人から子供まで、“箍”(たが)のやうなものが外れてしまつたと感ずるのは筆者だけではあるまい。祖先が営々として築き上げ、私たちに残しておいてくれたはずのものが、平成の今になつて一挙に崩落しようとしてゐる。正にあの韓国の橋のやうにである。

  俄かに浮上した、皇室典範の改正問題もさうだ。この国の、二千年来の一貫した伝統だつた男系による皇位の継承が、あれよあれよといふ間に切り崩されて、このままでは簡単に女系に移行しさうな勢ひである。神武天皇以来の、不動の大原則を変へようといふ大変な事態なのに(昔の言葉で言へば「国体の変更」であり、「皇統断絶」の危機に他ならぬ)、どうやらこの国の政治家には、そのことの重大性に思ひを致す精神の姿勢は欠落してしまつてゐるやうだ。残念ながらその点では、日本国民の意識も同列である。

  まづ先人の知恵に聴き、先人の意図したところを守り、それを自らの行動の規範とする。今の日本人に決定的に欠けてゐるのは、かかる歴史意識であらう。占領軍の検閲により、60年前に意図的に“忘れさせられた”日本人としてのアイデンティティを回復し、もう一度日本人の常識としてこれを育み、定着させ、次代を担ふ青少年に確実に受け渡すこと。そこにこそ、本会の使命もあるのだと思ふ。
平成17年12月1日