悲しみの収穫

■ロバート・コンクエスト
■白石治朗訳
■恵雅堂出版
■5,250円(税込)

 1932年〜33年のウクライナで人口の20%が大飢饅のため死亡するという比類のない惨事が生まれたことを知る日本人は少ない。これはヒトラーのホロコーストを上回る。スターリンの下で徹底した農産物の徴発が農民とコルホーズに対して行われたうえ、富農の撲滅が実施された。凶作が追討ちをかける。昨年11月にウクライナ議会はこの悲劇を「ソ連によるウクライナ人に対するジェノサイド」と認定した。筆者はロシア研究の大家、外交官、作家のロバート・コンクエスト氏で、世界に衝撃を与えた。
(平成19年7月号『史』掲載)

 

百人斬り裁判から南京へ

■稲田朋美
■文春新書
■756円(税込)

 南京戦で「百人斬り競争」をしたという"創作"記事のため、戦後、二人の日本人将校が処刑された。遺族が裁判の場で記事の取り消しを求めたが退けられた。新聞は真実の報道という本来の使命を捨て、裁判所は結果として虚偽の報道を保護した。本書はそれらの不当をひとつ理路整然と指摘していく。著者の稲田朋美氏は「弁護士生活20年の集大成」と位置づけてこの裁判に全力を投じた。そして今、この「百人斬り裁判」を政治家の原点として、「国家の名誉」を守る新たな闘いを国会の場で始めている。
(平成19年7月号『史』掲載)

 

早わかり・日本の領土問題  諸外国と何をモメているのか?

■田久保忠衛
■PHP研究所
■1,365円(税込)

 わが国が周辺諸国から、領土問題でどのような理不尽な言いがかりをつけられ、領土を占拠されているかを手際よく解説している。だが、本書の価値はそれに止まらない。戦後の「国家」や「主権」を忌避する風潮と戦ってきた著者は、日米安保と現憲法を信奉する「この国のかたち」を続けていては「最終的には領土をかすめ取られる」と断言する。日米同盟は堅持しつつ、日米同盟の枠内でいびつになったわが国を「普通の民主主義国」へ是正するのが領土問題解決の最短距離と説く。卓見だ。
(平成19年7月号『史』掲載)

トオサンの桜 散りゆく台湾の中の日本

■平野久美子
■小学館
■1,575円(税込)
 台湾には今でも普通に日本語を話す「トオサン」や「カァサン」たちがいる。李登輝前総統や蔡焜燦氏などの世代だ。「なぜ彼らは、戦前の日本や日本語にこだわり続けるのだろう」という疑問を晴らすため、20年以上も桜を植え続けるトオサンを中軸に、日本語世代がたどった戦前・戦後の軌跡を追いかける。トオサンたちが吐露する切々とした思いに涙するシーンが少なくない。小学館ノンフィクション大賞受賞の著者には優れた作品が多いが、日台交流史をも描く本書は若い世代にこそ読んでもらいたい。
(平成19年7月号『史』掲載)