自衛隊違憲論の凡百の教科書と一線を画し、防衛力の役割を明記

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自衛隊違憲論の凡百の教科書と
一線を画し、防衛力の役割を明記

評論家 潮 匡人

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 大半の公民教科書が自衛隊違憲論や、その海外派遣に対する反対意見だけを記述してきた。「自衛隊の行動に対して、国会や国民がつねに監視の目をむけていくことが必要である」と明記した教科書もある(詳しくは拙著『誰も知らない憲法9条』新潮新書)。
 他方、今回の『新しい公民教科書』は、コラム「もっと知りたい わが国の安全保障の課題」で、憲法9条に関する「4つの解釈」を示しつつ「自衛のための戦力の保持を禁止したものではない。したがって自衛隊の存在は憲法に違反しない」との解釈を明記した。
 右に続けて「法制上は軍隊ではない」と、自衛隊が「憲法上で軍隊として位置づけられていないことから」生じる課題を説明、「自衛隊の法的地位を改めるべきだという議論がある」と述べた。右の課題については、コラム「もっと知りたい 国際平和協力活動への取り組み」でも詳述している。
 また、単元19「日本国憲法の成立」で「GHQ案の指示」と題し「日本政府としては受諾する以外に選択の余地のないものでした」と説明。その側注②で「戦時国際法は、占領軍は非占領地の現行法規を尊重すべきであるとしている」と明記し、1958年制定のフランス憲法が占領下での憲法改正を禁止していることを紹介した。
 自衛隊違憲論だけを述べてきた凡百の教科書とは一線を画する。防衛力への偏見も見られない。それどころか「防衛力の役割は増しています」と明記(単元64)。国民国家の役割を4つに整理しながら「防衛と社会資本の整備と社会秩序の維持とともに、国民一人ひとりの権利の保障を新たな役割としてとり入れた」と筆頭に「防衛」を挙げた(単元15
)。
 さらに、コラム「もっと知りたい わが国の領土問題」で北方領土について「現在まで不法占拠を続けている」と、竹島についても韓国が「実力で不法占拠した」と明記した。同様に、コラム「もっと知りたい 海をめぐる国益の衝突」で「尖閣諸島を狙う中国」の動きや「海上保安庁の役割」を説明した。
 また「国際社会の争いは話し合いで解決できる」云々の空疎な議論(前傾拙著)を排して、現実を直視。「国際社会では、主権国家は相互に自国の国益を追求し、国の存続と発展を目指す権利を認めあっています。(中略)外交は話し合いで行われますが、その背後ではしばしば軍事力や経済力などの力(パワー)が外交手段として用いられています」と軍事力の役割を肯定的に説明した(単元59)。
 巻末「法令集」で憲法や国連憲章に加え、PKO協力法や武力攻撃事態対処法、海賊対処法、日米安保条約、国連海洋法条約等を抄録。裏表紙で「わが国の領域」を、排他的経済水域とともに図示した編集姿勢も高く評価したい。